多くの保護者が悩む、子どもの「好き嫌い」。ただ、多くは成長とともに徐々に好き嫌いが改善されていくことが一般的です。
しかし、発達障害を抱える子どもの中には、好き嫌いが極端で「偏食」になるケースがあり、実際、発達障害を抱える子どもの半数以上が何らかの偏食を抱えているとも言われています。
偏食が続くと、「栄養が不足してるのでは?」「子供の成長に悪影響は出ないだろうか?」と心配になってしまいますよね。
そこで本日は、発達障害と偏食の関係性を解説し、家庭でのサポート方法や対処方法をお伝えします。
是非最後までご覧ください。
発達障害と偏食の関連性
偏食とは「食べられるものが極端に少ない」・「毎日同じものばかりを食べる」ことで、子ども本人の好き嫌いやわがままが原因と思われがちですが、発達障害の特性によって引き起こされることがあります。
発達障害が持つ特性とは?
偏食の原因として考えられる発達障害の特性とはどのようなものがあるのか、ご紹介します。
こだわり
ASDによくみられる「こだわり」の特性がある場合、特定の味や食感のものしか食べない(または特定のものを食べない)ケースが見られます。
例えば、「白い食べ物=美味しい、赤い食べ物=不味い」といった見た目による条件付けや、発達障害の脳の特性には、嫌な記憶を思い返しやすいという傾向があるため、過去の経験からネガティブなイメージが食事に関連付けられてしまい、「魚を食べると必ず骨が刺さる」など、思い込みから偏食になることもあります。
特に「ハイコントラスト知覚」(白か黒か・0か100かなどの極端なものの捉え方のこと)がある場合、過去の一度の経験や、今ある知識によって「全てそうである」と思い込みやすいといわれています。
また、食事の際には様々な「マイルール」が存在することがあり、「スープは熱々じゃないと飲まない」「〇〇は学校の給食だけでしか食べない」「サラダを食べないと、おかずは食べない」「この食器でないと食べない」といった色々な条件が譲れない場合もあります。
感覚過敏
感覚過敏が存在する場合、食事の際に様々な「苦手な感覚」が見られることがあります。
子どもそれぞれ嫌いな感覚は様々ですが、下記のようなものが苦手とされることがあります。
・特定の食感が苦手(さくさく・ねばねば・どろどろ等)
・熱いもの、冷たいものが苦手
・圧覚(皮膚を押されている感覚)に過敏性があり、揚げ物の衣が口の中に刺さっているように感じたり、サイズの大きいな具材を飲み込む際に苦しさを感じる
・特定の味が苦手(酸味・甘味・苦味等)
・食べ物のにおいが苦手(生臭い・青臭い・酸っぱい等)
上記のような感覚に対して耐えられず、吐き出してしまったり、さらに外見に対する苦手意識(野菜や果物の種が気持ち悪い等)からも強い拒否感を感じてしまうケースも。
逆に好きな感覚に対しては、過剰に好むことがあり、その食品ばかりを食べることもあります。
その他の理由
発達障害の特性から、「不器用さ」のある子どもの中には、上手く食べられない、お箸を上手く使えないことで大人に叱られたなどの理由から、食事そのものを拒否するケースがあります。
またADHDの治療薬の副作用で食欲がなくなるケースや、アレルギーによる口内の痛みやかゆみなど発達障害以外の原因も挙げられます。
なぜ発達障害の子供は偏食をするのか?
前述した通り、発達障害を抱える半数以上が先ほどご紹介したような障害特性により、何らかの偏食を抱えているとも言われています。保護者からの「栄養があるから食べてね」という言葉も、気持ちが悪くて食べられないと感じることがあり、子ども自身が食べられないことを、一番困っている可能性があります。
発達障害を抱える子どもの「偏食」を一般的な「好き嫌い」「わがまま」とは異なる視点から考え、わがままだから好き嫌いをするではなく、子どもの気持ちを理解し、なぜ食べられないのかを一緒に考え、少しずつ前向きに改善していく方が、子どもも保護者の方も受け入れやすくなります。
また、子どもの偏食を「個性」としてとらえることで、保護者の方の心配やストレスを緩和する手助けにもなります。
家庭でできるサポートとアプローチ
ここまでは偏食の理由を紹介してきました。
この章では偏食を改善できるようサポートしていけばよいか、家庭でできるサポート方法を4つご紹介します。是非参考にして実践してみてください。
何が苦手か理解する
味覚(どんな味)・触覚(どんな舌触り、口当たり)・嗅覚(どんなにおい)・視覚(どんな見た目)など、どの感覚がどのように苦手なのかを子どもに聞いてみましょう。
複数の苦手な食材がある場合には、共通点が見えてくることがあります。
過去の嫌な経験や、マイルールによって食わず嫌いをしている場合には、「苦手だけど、頑張ってみたい」「我慢してでも、食べてみよう」という強いモチベーションを持たせることがポイントで、「ご褒美」を用意するのもおすすめです。通常は難しいと思われる要求(例:ゲームを買ってあげる、遊園地に連れて行ってあげる等)で子どもが強く希望しているものであると、より効果的が、ご褒美欲しさに行動がエスカレートしていかないように気を付けましょう。また、ご褒美を与えるまでにあまり間があいてしまうと、達成感が落ちてしまうので注意しましょう。
調理方法の工夫
食べ物の感覚が苦手な場合、すり下ろしたり、細かく刻んだりして好きな食べものに混ぜるなどの工夫をすることで、苦手な感覚を軽減させることができます。例えば、イチゴの「酸味」が苦手な場合には、ジャムにすることで酸味を和らげることができます。また、食感が苦手な場合には、揚げる・固める・煮るなど調理法を変えてみるのも良い方法です。
ただし、特性のある子どもの場合は少しの感覚でも敏感に感じ取ってしまうことがあるため、注意が必要です。工夫する際には子どもの反応を観察しながら、適切なアプローチを選ぶことが重要です。
ひとくちから練習
いきなり苦手なものを全て食べるのは難しいので、まずは一口からスタートしましょう。
食べることができたらその場ですぐに褒め、一口食べられたらそこで終わりにしてください。
その後は「二口」「小さなお皿」「中くらいのお皿」など、徐々に苦手な食材に慣らしていくことで、苦手な食材を食べられるようになることもあります。
代替え
無理に食べさせようとすると偏食が悪化したり、食べることそのものが嫌いになったりするケースがあるため、さまざまな工夫をしてもどうしても食べられないときは、似た栄養素のある別の食材を活用したり、サプリメントで必要な栄養素を摂取するなどの代替案を考慮することも必要です。
子どもひとりひとりに合わせて、焦らず取り組んでいきましょう。
年齢別 偏食への対処方法
年齢によって効果的な偏食への対処法もご紹介します。
2~3歳
・盛り付けを変える
2歳ごろになるとイヤイヤ期も重なり、気分で食べたくないということも多いです。
器を変えたり、キャラクターの型抜きをしたりといったひと手間でも食べることもあります。
・苦手なものを擬人化してみる
2歳~3歳頃であれば見立て遊びにも興味がある時期なので、「ピーマンさん、〇〇が食べてくれなくて泣いているよ!」など、食べ物を友達に見立てて話してみることで、子どもも素直に受け取れることもあるようです。
4~5歳
・料理を手伝ってもらう
一緒に料理をすることで、子供は食事に対する興味を持ち、食べることが楽しくなることがあります。自分で調理に参加することで、作った料理に対する自信や満足感が生まれ、それが食べる意欲につながることがあります。「自分で作ったものだから食べてみよう」という気持ちが生まれ、嫌いなものでも食べられるようになることもあります。
忙しい平日でも、週末など時間がある際には、子供と一緒に料理を楽しむことで、食育を促進し、好奇心を刺激する良い機会となるでしょう。
小学生の場合
・生活習慣の見直し
小学生になると、塾や習い事により食事の時間が乱れ、間食や夜食が習慣化することで、偏食や好き嫌いなどにつながると懸念されています。
生活習慣が整っているか確認し、間食や夜食については、子供と相談して食事に影響のない量と時間を決め、できるだけ控えめにし、徐々に習慣を変えていくよう努めてください。
・給食などを通じて食べられるようになることも
小学生になると友達の影響で偏食が改善することもあるようです。
中学生の場合
中学生以上になると、自分で食生活の問題点に気づくことができるようになります。
自分の体調を考慮して、食べ物を選び、健康な食習慣を身につけることが大切です。
「自己管理能力」を育むために、食事、体、心の関わりについて家庭で学べるようサポートし、楽しく食事をすることができるように心がけましょう。
また、自分で好きなものを買って食べることもあると思います。思春期の心身の不調と関連する偏食にならないよう、バランスの良い食事や外食の仕方について教え、健康な食習慣を身につけるサポートを行いましょう。
栄養素別 健康と食事の関係
特定の栄養素が不足する、または過剰に摂取することが、健康に与える影響について、各栄養素ごとに説明します。
タンパク質
たんぱく質はエネルギー源として、糖質や脂質と共に体の活動に不可欠な栄養素です。
糖質が不足すると、たんぱく質がエネルギーとして利用されることがあります。
たんぱく質が不足すると、体力や免疫機能が低下しやすくなります。たんぱく質が豊富に含まれる卵、肉、魚、大豆製品などをバランスよく摂取することがおすすめです。
ただ、たんぱく質を過剰に摂取すると、老廃物として窒素化合物が増加します。窒素化合物が増加すると腎臓に負担がかかるため、腎疾患のある方は過剰に摂らないようにしましょう。
糖質
糖質は、主要なエネルギー源のひとつです。特に、脳は糖質を主要なエネルギー供給源として利用しているので、糖質不足が続くと疲労感や集中力の低下が生じやすくなります。
また、不足すると、体はたんぱく質(筋肉など)をエネルギー源として活用するので、これが続くと筋肉量が減少し、基礎代謝量が低下する可能性があります。
逆に、摂取した糖質が過剰であると、エネルギーとして消費しきれずに中性脂肪として蓄積され、肥満や生活習慣病のリスクが高まります。特に、急激な血糖値の上昇を招く高糖質の食事は、余分な糖が脂肪として蓄積されやすくなります。
脂質
脂質は、少量から多くのエネルギーを提供する重要なエネルギー源です。1gあたりのエネルギー比較では、糖質・たんぱく質が4kcalに対し、脂質は9kcalという高いエネルギー量を持っています。
脂質の一種であるコレステロールは、細胞膜の構成に不可欠な成分であり、脂質不足は細胞膜や血管壁をもろくする可能性があります。
ただし、脂質を過剰に摂取すると、中性脂肪により、健康に悪影響を及ぼすことも。中性脂肪は甘いものや油分を過度に摂ることで上昇しやすくなります。中性脂肪の増加は脂肪肝などのリスクを引き起こす可能性がありますので、バランスの取れた脂質摂取が重要です。
ビタミン
ビタミンは体内で生成することが難しいため、食事からの摂取が不可欠です。
ビタミンは水溶性と脂溶性の大きく二つに分けられ、水溶性ビタミンは血液などに溶け込み、さまざまな代謝に必要な酵素の働きを補います。余分なものは排出されるため、過剰に摂ることはあまりないと考えられていますが、不足しないように摂取することがおすすめです。
脂溶性ビタミンは、肝臓などに貯蔵され、身体の機能を正常に保つ働きをしています。体内に蓄積されやすく、過剰摂取すると頭痛や吐き気などの症状が出る場合があります。
ビタミンによって不足による症状も異なります。
ビタミンA・・・皮膚が乾燥したり最近への抵抗力が低下する
ビタミンC・・・皮下出血や歯肉からの出血を起こしやすくなる
ビタミンD・・・骨や歯の成長障害、骨折しやすくなる
ミネラル
ミネラルは、身体を構成する主要な4元素(酸素・炭素・水素・窒素)以外の無機質を指し、体内では合成されないため食事からの摂取が不可欠です。
ミネラルには様々な種類が存在し、それぞれのミネラルが吸収や機能に影響を与え合うため、適切なバランスで摂取することが重要です。
ミネラルも種類ごとに不足による症状は異なります。
ナトリウム・・・倦怠感・食欲不振
カルシウム・・・骨折しやすくなる
鉄・・・鉄欠乏性貧血
食物繊維
食物繊維は、整腸作用による便秘予防や、脂質や糖質などを吸着して体外へ排出する役割があります。そのため、肥満や脂質異常症、糖尿病、高血圧などの生活習慣病の予防や改善に寄与し、第6の栄養素とも言われています。食物繊維は食材に自然に含まれており、消化酵素では分解されない物質です。
通常の食生活では、食物繊維を摂りすぎることはめったにありませんが、過剰な摂取はミネラルの吸収を妨げる可能性があるため、適切な量を摂るよう心がけましょう。
食べられないときのマナーを教えるのも大切
食べられないものを無理に食べさせる必要はありませんが、お子様の成長に合わせて「食べられないもの」にどのように対応するかを教えていくことは大切です。
おうちでは避けられる食材でも、給食で出てくる可能性があるため、お子様が言葉でコミュニケーションがとれるようになる3歳ごろからは、そのときのマナーも教えてあげると良いです。
例えば、食べられないものは皿の端に寄せる、先生に理由を伝えるなど、基本的なマナーが身についていれば、無理に食べようとして偏食が悪化することも少なくなるでしょう。
同時に、食べ物を作った人のことを考え、残すときには「ごめんなさい」と言うことや、次回からの配膳量の調整に気を配るなども教えていくと良いです。
まとめ
発達障害を抱える子どもは、苦手な食べ物に対して耐え難い苦痛や大きなストレスを感じることがあります。無理に苦手なものを食べさせたり、食べないことを叱ったりすると、「食事」をすること自体が嫌いになる可能性があります。
保護者は、「好き嫌いなく食べられることが正しい」「偏食はわがまま」といった先入観を持たず、お子さまに寄り添ってあげましょう。
克服を無理に求めず、保護者とお子さまが協力して、苦手な感覚を回避する方法を共に考えていくことが大切です。本記事を参考に、無理強いせず、お互いに理解し合いながら、楽しく食事ができることを願っています。