愛着障害がある子どもへの叱り方のコツ|特徴や愛着形成のために必要なことなど

愛着障害がある子どもへの叱り方のコツ。

愛着障害とは、主に乳幼児期の子どもと特定の人の間で情緒的な絆が十分に作れずに問題を抱えている状態のことです。愛着障害の子どもは、対人関係や社会生活においてさまざまな困難があるでしょう。

子どもが良くない言動をしたときに、教育者は愛を持って叱ってあげることは大切です。
とはいえ、愛着障害の子どもを育てる方の中には、「正しい𠮟り方が分からない」や「愛着形成のために必要なことは?」と悩んでいる方もいるのではないでしょうか。

この記事では、愛着障害がある子どもの特徴や叱り方のコツ、愛着形成の方法などを解説します。子育てに悩む方は、ぜひ参考にしてください。

愛着障害は「愛情不足」が原因ではない

愛着障害は「愛情不足」が原因ではないの説明。

愛着障害とは、乳幼少期に何らかの原因で、特定の人との愛着が形成されないために生じる「自分のさまざまな感情を行動でうまく表現できない」状態です。

乳幼少期の子どもは恐怖や驚きを感じると、泣いたり感情をあらわにしたりすることで気持ちを表現します。養育者は、子どもの愛着行動に気づき寄り添うことで安心感を与え、愛着を形成していくのです。

「愛着障害は愛情不足が原因」と言われることがありますが、必ずしもそれだけが原因ではありません。愛着障害の原因は、以下のようなものが挙げられます。

  • 養育者との離別、死別
  • 養育者からの虐待、ネグレクト
  • 養育者の頻繁な交代
  • 褒められることが極端に少ない環境
  • 養育者による厳格なしつけ、教育
  • 兄弟との極端な比較、差別

このように、愛着障害はさまざまな家庭環境や養育環境によって起こる可能性があります。子どもに愛着障害が見られても、「自分は子どもへの愛情が足りていない」と過度に感じることはありません。

まずは、愛着障害になった原因やきっかけ、症状についてしっかりと理解することが大切です。
「いまの生活環境で育てられる自信がない」「愛情の伝え方が分からない」など不安な場合は、児童相談所や地域の保健所などの行政にも相談してみましょう。

愛着障害の子どもが叱られることをする理由

小さい男の子がコップを持っている様子。

愛着障害の子どもは、特有の理由によって大人に叱られる行動を取ることがあります。

乳児期から愛着形成が不十分であり、自尊心や自己肯定感が低いことが主な理由です。わざといたずらや悪さをして、人からの愛情や自分の居場所を確認するため叱られるような行動をします。

愛着障害の子どもがする叱られる行動の例は、以下のようなものです。

  • わざとおもちゃを投げる、壊す
  • 大人や友達に暴力的な行為をする
  • あまのじゃくな行動をとる
  • たくさん嘘をつく
  • 「イヤ」「しない」と大人の話を受け入れない
  • 年齢問わず過度に甘える

このような行動が確認できる場合は、愛着形成に問題があるかもしれません。
愛着障害の子どもは、愛着形成が不十分なことから孤立感を感じやすく、感情が不安定になることがあります。その感情が、攻撃的な行動や反抗的な態度のきっかけになることがあるのです。

また、愛情不足を感じている子どもは、叱られることで少しでも注意を引く時間を得ることで、愛情不足を補おうとします。𠮟られることで、「私のことを気にかけてくれている」と感じるのです。

このように、愛着障害の子どもは、感情が不安定になったり、愛情不足を感じるたりするため、わざと叱られる行動をします。子どもが起こす行動を理解したうえで、叱り方や気持ちの伝え方を改めて見直すことが大切です。

愛着障害がある子どもへの叱り方|2つのコツ

男の子に保護者が何かを言っている様子。

愛着障害がある子どもへの叱り方には、以下2つのコツがあります。

  • 否定的な叱り方をしない
  • 追い詰めるような𠮟り方をしない

それぞれ解説します。

否定的な叱り方をしない

子どもが良くない行動をしたとき、「〇〇しちゃダメ!」と否定的に叱ることがあるかもしれません。
しかし、愛着障害の子どもを否定的に叱ることは避けましょう

否定的な叱り方は、過度な精神的ダメージを与え、子どもは自分の存在や人格を否定されたと感じてしまうのです。自尊心や自己評価がさらに下がる場合もあります。

叱る必要があるときは、肯定的な表現を使うことが大切です。「走ってはダメ」ではなく「ゆっくり歩こう」や、「物を投げてはダメ」ではなく「優しく置こうね」のように、前向きな声がけをしましょう。

追い詰めるような𠮟り方をしない

愛着障害の子どもを追い詰めるように叱ることも適切とはいえません。

悪さをした子どもに対して、「どうして」や「なぜ」のような言葉を使って叱ると、子どもの感情が混乱してしまいます。

愛着障害の子どもは、理由を問われながら追い詰められても防衛反応を示すだけで効果がありません。感情のコントロールができないため、周りの大人や友達に対して暴力的になってしまい、攻撃性が強まる可能性があります。

叱る場面では、「どうしてこんなことをしたんだ」と追い詰めるのではなく、「こんなときはこうしようね」のように優しい口調で教えてあげましょう。

愛着障害の子どもの主な3つの特徴

小さな女の子が座ってうつむいている様子。

愛着障害の子どもには、主に以下の3つの特徴がみられます。

  • アピール行動や試し行動がある
  • 自己防衛力が強い
  • 自己評価の低さ

それぞれ解説します。

アピール行動や試し行動がある

愛着障害の子どもには、注目を得るためのアピール行動や愛情を試す行動があります。

アピール行動は、「痛くない怪我でも痛そうにふるまう」「わざといたずらをする」「誰かのものを隠す」といった、注目されるためにする行動です。

試し行動は、わざと相手の反応を引き出すふるまいをして、相手が叱るかどうかなどの反応を試します。

いずれも、親や養育者が忙しいときや他のことに気を取られているときに見られやすい行動です。試した後は、人の反応を見て行動を変えるといった特徴もみられます。

アピール行動や試し行動は、される側に原因があるとは限りません。初めて会う人に注目されたいときや特定の人との関係ができ始めたときなど、行動が見られるタイミングはさまざまです。

自己防衛力が強い

自己防衛は、愛着障害の特徴の中で顕著な特徴といわれています。主に、自分が責められているときや都合が悪いときに、感情を穏やかに保つために自己を守る言動です。

愛着障害の子どもは自己防衛力が強く、問題が起きたときに自分が被害者であると主張したり、自分の非を絶対に認めなかったりします。

「誰も守ってくれないかもしれない」と感じてしまい、相手に非があると主張するのです。

いたずらや悪さに対して過度に追及すると、自己防衛力がさらに強まり、解離症状を引き起こすおそれがあります。

自己評価の低さ

自己評価の低さは愛着障害の特徴のひとつで、「自己否定」と「自己高揚」がみられます。

自己否定は、過去の失敗体験から「どうせできない」「自分には無理」とネガティブ思考になります。感情の幅が大きくなると、「自分なんて生まれなければよかった」と自分を全面的に否定することも少なくありません。

自己高揚は、自己評価の低さを自認できず、無理に自己評価を上げる行動をします。自己高揚が強くなると、自分もできていないのに他人の失敗も指摘したり、人をいじめてしまったりという行動が現れるのが特徴です。

愛着障害|2つの種類

愛着障害の2つの種類。

愛着障害の種類は、以下の2つです。

  • 反応性愛着障害(反応性アタッチメント障害)
  • 脱抑制型愛着障害

それぞれの特徴と共通点を解説します。

反応性愛着障害(反応性アタッチメント障害)

反応性愛着障害は、人に対する警戒心が過剰で、人と心理的な距離が分からないタイプです。反応性アタッチメント障害とも呼ばれています。

反応性愛着障害の子どもは、養育者に対しても警戒心や恐怖心があり、うまく頼ることができません。他にも、人の言葉に深く傷ついたり自傷行為が見られたりといった行動もみられます。

他の特徴としては、以下の通りです。

  • 無表情なことが多い
  • 落ち込みやすい
  • 他の子どもとの交流がない
  • 自己評価が低い

小さいころに無条件で養育者に甘える経験や、不安なときに安心できる環境がなかったことが原因として考えられます。自分の存在価値が分からず頼れる人がいないことで、「他人を信じられない」「頼っても良いのか分からない」という思考になるのが、愛着障害の特徴です。

脱抑制型愛着障害(脱却制性対人交流障害)

脱抑制型愛着障害は、誰にでも過度になれなれしく甘えるタイプです。脱却制性対人交流障害とも呼ばれています。

脱抑制型愛着障害の子どもは、誰かれ構わずベッタリ抱きついたり乱暴な行為に走ったりすることがあります。また、コミュニケーション力や協調性が欠けていることがあります。

脱抑制型愛着障害の子どもは、他にも以下のような特徴があります。

  • 注意を引く行動を起こす
  • 怒りっぽい
  • 乱暴な言葉を発する
  • 嘘をつきやすい

人との距離感が分からないまま過ごしてしまうので、人間関係がうまくいかないことが多いです。脱抑制型愛着障害は、誰にでも愛着行動を示したり、注意を引こうとして見境なく親しげな振舞いをしたりします。しかし、人との交流は乏しく、環境によっては情動障害や行動障害を伴ったりするでしょう。

反応性愛着障害と脱抑制型愛着障害の共通点

異なるタイプに思われる反応性愛着障害と脱抑制型愛着障害ですが、複数の共通した特徴があります。

共通してみられる特徴は、以下のとおりです。

  • 少食、身体が周りより小さい
  • 体調不良を起こしやすい
  • 自分や他人を傷つける
  • 試し行動をする
  • 理由もなく嘘をつく
  • 睡眠障害や摂食障害がある

このように試し行動や嘘をつくことや身体状況には、反応性愛着障害と脱抑制型愛着障害のどちらも、いくつかの共通した特徴があるといわれています。

愛着を形成するために必要なこと

小さな女の子と保護者が向き合って話している様子。

子どもと愛着を形成するためには、以下の3つの形成が必要です。

  • 安全基地
  • 安心基地
  • 探索基地

それぞれ解説します。

安全基地を形成する

安全基地とは、子どもが「この人といれば守ってもらえる」と強く感じられる環境のことです。

子どもは新しい環境や不安な環境にいると、ネガティブな感情が生まれて誰かに助けを求めたくなります。そこで、特定の人に守ってもらえたり恐怖心が和らぐような環境に帰れたりすると、安全性を感じられるのです。

また、安全基地を作ることで、子どもの自立心や外部への好奇心が育ちます。守ってもらえると分かれば、今いる環境から外に出る勇気を持てるのです。

安全基地は子どもに「怖い思いをしても守ってもらえるんだ」と感じてもらえるので、養育者との愛着が形成される一歩になります。

安心基地を形成する

安心基地とは、子どもが特定の人に「安心する」「落ち着く」「気が楽になって癒される」などのポジティブ感情を持てる環境のことです。

新しい発見や失敗したときなどに話を聞いて励ましてもらえると、子どもは安心します。「大変だったね」「応援しているよ」「あなたは頑張っている」と前向きな声がけをするとよいでしょう。

安心基地を作ることで子どもは特定の人への安心感や癒しを感じ取れるようになり、精神的に安定します。
「この人に自分のことをもっと話したい」「見ていてほしい」などと、愛着形成にもつながるのです。

探索基地を形成する

探索基地とは、子どもが外の環境から戻ったときに「今日はこんなことがあったんだよ」と自身の経験や心情を報告し、精神的な自立につながる環境です。子ども自身の心情の変化や自立心の成長を促す役割があります。

子どもにとって重要なことは「体験を共有でき、受け入れてもらえること」です。子どもが自身の体験を話しやすい環境を作り、聞く側がしっかり受け止めてあげると愛着が形成されていきます。

愛着が安定する3つのコツ

赤ちゃんを保護者が抱きかかえている様子。

子どもとの愛着が安定するコツは、以下の3つです。

  • 子どもと一緒に成長する
  • 無条件の「褒める」を増やす
  • 子どもの気持ちに寄り添う

それぞれ解説します。

子どもと一緒に成長する

愛着の安定には、子どもと一緒に大人も成長することが大切です。

愛着は、子どもの精神面とともにゆっくりと安定していきます。大人も子どもの歩幅やスピードに合わせて、ゆっくりとステップを踏んでいきましょう。

一緒に成長するためには、共同作業などによって成長できる環境を分かち合えると良いです。

料理や物作りなどを協力してみることで、お互いの安心感や信頼関係が強くなります。子どもにとって安心できる居場所があれば、失敗も恐れないでしょう。

愛着を安定させるためには、子どもの成長を見守るだけでなく同じスピードで一緒に成長することを意識してみてください。

無条件の「褒める」を増やす

無条件に褒めるとは、頑張りや成功の有無は関係なく、子どもを褒めてあげることです。感謝を伝えたり優しく接したりすることも、無条件に褒めることに当てはまります。

「手伝った時だけ頭を撫でる」「成功した時だけ褒める」のように、褒めることに条件をつけてしまうと、子どもは心の底から安心することができません。

無条件の「褒める」の例として、以下のようなものがあげられます。

  • 存在:帰ってきたときに抱きしめる、抱っこしてあげる
  • 感謝:お手伝いをしたかに限らず「ありがとう」と伝える
  • 態度:子どもが話すときは必ずうなずく、微笑む

このように無条件に褒めてあげると、子どもが人とのつながりや安心感を意識でき、少しずつ愛着が安定していきます。愛着を安定させるためには、無条件で褒める機会を増やしていきましょう。

子どもの気持ちに寄り添う

子どもは、赤ちゃんのときはまだ目が見えないので人を特定せずに反応しますが、たくさんの愛情を注いでくれる人は見分けているといわれています。

子どもが小さいうちから、成功したときは一緒に喜び、辛そうにしているときは励ましてあげるなど、子どもの気持ちに寄り添うことが大切です。

心の距離が近くなると、子どもは「この人は自分の気持ちを理解して寄り添ってくれる」と感じます。この経験が続くことで、少しずつ愛着が安定していくのです。

子どもが感情を表に出しているときは、過剰に叱ったり見ないふりをしたりせず、無条件に感情を受容してあげましょう。

まとめ

子どもと大人が手をつないでいる様子。

愛着障害は、子どもと特定の人との愛着がうまく形成されないことで起こる状態です。愛着障害があると、感情の行動での表現が難しく、うまく社会に馴染めなくなる可能性があります。

良くない行動をした子どもを叱るときは、否定や問い詰める叱り方は適切ではありません。子どもの気持ちに寄り添い、安心できる環境を作ってあげましょう。

愛着は、特定の人と一緒に成長できたときや無条件に褒めてもらえたときに安定していきます。愛着障害の子どもには安心感や心のつながり、信頼感を与え、しっかりと安全基地を作ることが大切といえます。

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ウィズ・ユー編集部

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