皆さんは「聴覚過敏」という言葉を聞いたことはありますでしょうか?聴覚過敏は、日常生活の中で聞こえてくるさまざまな音に過度に敏感である特性を指します。具体的には、普通の音が通常の人々よりも鋭く感じられる、あるいは特定の音に過度に反応することを意味します。自閉症スペクトラム障害(ASD)の子どもたちの中には、特に聴覚過敏の症状が強いという特性を持つ者が多いとされています。
このような背景から、自閉症の子どもたちが日常生活や学校生活を送る中で、特定の音や周囲の騒音に対してストレスや不快感を感じることがあります。そのため、彼らの心地よい環境作りのためには、適切なサポートや配慮が求められます。
その一つの方法として、多くの専門家や親たちが取り入れているのが「ヘッドホン」や「イヤーマフラー」です。これらのアイテムは、外部の音を遮断することで、子どもたちが安心して学習や遊びを楽しむことができるようサポートしてくれます。
本記事では、自閉症と聴覚過敏の関係性について深く掘り下げ、聴覚過敏を持つ子どもたちが日常生活で快適に過ごすための具体的なアドバイスやコツを詳しく紹介します。親御さんや関心を持つ方々が、より理解を深めるための手助けとして、本記事が参考になれば幸いです。
自閉症と聴覚過敏
まず、自閉症と聴覚過敏とはどんなものなのかを解説します。
自閉スペクトラム障害(ASD)とは
自閉スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder、ASD)は、発達障害の一つです。
自閉スペクトラム障害には、自閉症、アスペルガー症候群、特定不能の広汎性発達障害とそれぞれ独自の特徴を持ったものが含まれますが、それぞれの境界が曖昧であるために「自閉スペクトラム障害」と総称でまとめられることが一般的です。
自閉症は20世紀の初頭にアメリカの小児精神科医、レオ•カナーの研究により、神経発達に関連する疾患として認知されるようになりました。
自閉症の特徴
自閉症スペクトラム障害(ASD)は、大きく2つの特徴に分けることができます。ひとつずつご紹介します。
①対人関係を調整することが苦手
自閉症スペクトラムの子どもは、人に対する関心が弱く、相手の気持ちや状況を理解すること、曖昧なことを察するのが苦手で、事実や理屈に基づいた行動をとる傾向にあり、臨機応変に対応することが対人関係において難しく、トラブルになりがちです。
特徴的な行動
•他者との交流よりも、1人でいることを好む
•受け身な態度を取ることが多く、相手との対話が一方的になることがある。
•他者の気持ちに鈍感で、人情に配慮することが難しい
•話し方、声のトーンが独特で話す速度や内容に遅れが生じることが多い
•「おうむ返し」のように相手の言葉を繰り返す(エコラリア)
•敬語の使用、皮肉や冗談、例え話が通じにくい
•言葉の背後にある意味や文脈を読み取るのが難しい
②強いこだわりがある
マイルールや特定の物事に強いこだわりがあり、好き嫌いが極端です。自分の興味関心が強い分野では良い結果が出やすくなる一方、そうでない分野は苦手になりやすいです。
特徴的な行動
•興味が非常に特定的で、一部の物事に集中する
•特定のトピックやアクティビティに深い関心を示す
•繰り返し行う特定の手順やルーティーンに固執する
•一貫して同じ行動パターンをとる
•興味を持った分野に関して、深い専門知識や情報を持つ
自閉症の原因
原因は解明されていませんが、遺伝や環境が関係していると考えられています。
聴覚過敏とは
聴覚過敏とは、感覚過敏のひとつで、生活の中の一般的な音に対しての感受性や反応が過敏である状態を指します。この状態の人は、通常の音や周囲の環境音が大きく感じられ、それによって不快感や痛み、ストレスを感じることがあります。この症状は、自閉症スペクトラム障害(ASD)や感覚過敏症状を持つ他の状態と関連していることがあります。
自閉症と聴覚過敏の関係
聴覚過敏は自閉症スペクトラム障害(ASD)の一部とされる特性です。
自閉症の子どもには聴覚過敏などの感覚過敏の症状を抱えているケースが多いと言われています。
しかし、全ての自閉症の子どもがこの症状を持っているわけではありませんし、逆に、聴覚過敏があるからといって、必ずしもASDであるわけでもありません。
聴覚過敏の原因は、耳や脳、心の疾患にも関連しており、症状の種類や程度は人それぞれ異なります。
例えば、高音に敏感な子どももいれば、低音が苦手な子どももいます。
ヘッドホン(イヤーマフラー)をつける理由
聴覚過敏の原因である音を遮断、もしくは低減させるために使われるのがヘッドホンやイヤーマフラーです。
ヘッドホンとイヤーマフラーは見た目はほとんど同じですが、少し機能に違いがあります。
どちらが適しているかは、個人の症状や好みによりますが、それぞれの特性を考慮すると以下のようになります。
ヘッドホン
•一部のヘッドホンにはノイズキャンセリング機能があり、外部の音を低減することができます。
•長時間使用しても耳に負担がかからないものが多い。
•音楽や白雑音を再生することで、過敏な反応を隠蔽することができる。
イヤーマフラー
•耳全体を覆うため、外部の音を遮断する効果が高い場合があります。
•ヘッドホンよりも外部の音を遮断しやすいデザインです。
•長時間使用すると耳が蒸れることがあるため、通気性の良いものを選ぶのがおすすめ。
どちらを選ぶかは、過敏な反応の強さ、使用する環境、快適性などの要因を考慮して判断すると良いでしょう。また、購入前に店頭で試着や試聴をすることで、自分に最適なものを見つけることができます。
ヘッドホンと聴覚過敏の関係
先ほど述べた通り、ヘッドホンは聴覚過敏の原因である騒音を低減、遮断することができます。
ヘッドホンの効果や選び方、どんな音が苦手なことが多いのかご紹介します。
ヘッドホンの効果
聴覚過敏の症状は個人差がありますが、ヘッドフォン、特にノイズキャンセリング機能を持つものは、有効な対策となる場合があります。ノイズキャンセリング機能を備えたヘッドフォンは、周囲の騒音を低減することができるため、外部の刺激や音による不快感を軽減する可能性があります。
ただし、ヘッドフォンを常に使用することで耳の環境を完全に閉じ込めることは、長期的には過敏症状の増強や耳の健康に悪影響を及ぼす可能性も考えられます。したがって、ヘッドフォンの使用は症状の軽減を目的とした一時的な対策として、適切な方法と頻度で行うことが重要です。
聴覚過敏の症状や対応方法については、専門家の意見やアドバイスを受けることが最も確実な方法となります。
苦手な音の例
下記は聴覚過敏の人が不快に感じる可能性のある音の例です。
・急な大きな音(爆発音や鳴門)
・金属音やガラスの割れる音
・人混みや賑やかな場所の雑音
・サイレンや警報音
・機械の作動音(特に高周波の場合)
・高音域の泣き声や叫び声
・木や家具が擦れる摩擦音
・水の流れる音や排気音
・動物の鳴き声(特に突然の大きな鳴き声)
・電子機器のブザーや警告音
・食事時の食べ物の音や噛む音
・足音やドアの閉まる音
・乾燥機や掃除機の作動音
・音楽やテレビの音量が高い場合の音
なぜこれらの音が苦手なのか、理由は個人差がありますが、自閉症の人々は、外部からの感覚情報を処理する方法が通常の人々とは異なると言われていて、ある種の音が特に強烈に感じられることがあるようです。
ヘッドホンの選び方
ヘッドホンを選ぶ際のポイントをまとめました。
ぜひ参考にしてください。
種類の選択
•オーバーイヤー型: 耳を覆う大型のカップが特徴で、外部の音をより遮断しやすいです。
•オンイヤー型: 耳に直接乗る小型のカップで、通気性が良くなることが多いです。
ノイズキャンセリング機能
•雑音をアクティブにキャンセルする機能があるヘッドホンを選ぶと、外部の騒音を低減できます。
音質
•低音、中音、高音のバランスや解像度を確認し、自分の好みに合ったものを選びましょう。
快適性
•長時間使用しても耳や頭に負担が少ないかどうかを確認します。クッションの柔らかさや調整可能なヘッドバンドなどが快適性に影響します。
接続性
使用するデバイスや目的に応じて、有線やBluetoothなどの接続方式を選びます。
耐久性
頻繁に使用する場合や移動中に使用する場合は、頑丈で耐久性のあるモデルを選ぶと良いでしょう。
ブランドやレビュー
信頼性の高いブランドや、実際のユーザーレビューを参考にすると、購入時の判断材料となります。
最後に、実際に店頭で試着や試聴をすることで、音質やフィット感を確かめることができます。自閉症の子どもは聴覚過敏だけではなく、感覚過敏の子どもも多く、着け心地がよく、好みに合ったものを選ぶために、比較検討をしっかりと行うことが大切です。
自閉症の子どもが過ごしやすい環境の作り方
ここまではヘッドホンでの聴覚過敏対策について見てきました。他にできる過ごしやすい環境の作り方を3つ紹介します。
耳に入る音を減らす
音の影響を軽減するためには、耳栓やイヤーマフが役立ちますが、エアコンのような定常音に対してはノイズキャンセリング機能のついたヘッドホンやイヤフォンが特に効果的です。
これらのアイテムを携帯することで、不快な音がある場面でも聴覚に対する刺激を減らし、子どもの安心感を向上させることができます。
ただし、常時使用すると逆に過敏症状を強化する可能性があるため、特定の環境でのみ使用するようにし、日常生活では避けるとバランスが良いでしょう。
話しかけ方を工夫する
子どもが人の声や言葉に過敏である場合、大人がコミュニケーション方法に配慮してあげることが重要です。話すときには、声の高さや速さを落ち着いたトーンに調整することで、子どもの聞きやすさを向上させることができます。
また、聴覚過敏が高まる際には、視覚的な情報提示が効果的です。具体的な写真やイラスト、物を用いて視覚から情報を伝えることで、子どもの不安を和らげることができます。
子どもの安心感を高めるために、彼らのお気に入りのアイテムやグッズ(ぬいぐるみ、毛布など)を持参することが有効です。これらのアイテムは、不安定な状況でも子どもをリラックスさせる助けとなります。苦手な音を配慮してもらう
子どもが苦手とする音の影響を最小限にする対策を考えましょう。
不快な音は、その音を取り除きましょう。
以下に、具体的な対策をいくつか紹介します。
•大音量の音(電話機やスピーカーなど)が苦手な場合には、布などで覆って音を和らげる
•机や椅子の脚部分に、布を巻いたりテニスボールを取り付けることで、音を吸収・減少させる。
•子どもがリラックスできるような静かなスペース、例えば段ボールで作った小さな空間を設ける。
•運動会などで使用されるピストルの大きな音を、手を叩くなどに変更してもらう。
自閉症の子どもの困りごと&対処方法
自閉症の子どもは他にどんなことで困ることが多いのでしょうか。
よくある困りごとと対処方法をご紹介します。
言葉での説明が苦手
自閉症の子どもたちは相手の意図を汲み取ったり、曖昧な表現によるコミュニケーションが苦手です。
「言葉の曖昧さ」を解消するためには、具体的な指示が必要です。例えば、食事中に「ちゃんとしなさい!」と言った際、「まっすぐ座る」「お皿を手前に移動する」という具体的なアドバイスがなければ、自閉症の子どもたちは、言葉の背後にある暗黙の了解を捉えるのが難しいのです。
また、長い説明や一度にたくさんの指示を受けることも苦手です。指示は短く簡潔に。
言い換えの例
•丁寧に手を洗おうね
→手を10回ゴシゴシしようね
•うろうろせずに椅子に座って食べなさい
→座ってね。(座れたことを確認して)食べてね。
•あとちょっと
→時計の針が12になるまで
•暗くなる前に帰ってきてね
→17時に帰ってきてね
時間を守れない
自閉症の子どもたちは、自分のルーティンにこだわる特性があり、急な予定の変更に臨機応変に対応することが苦手です。また、何かの行動をしているときに、途中で止めるように指示されると、強いこだわりがあるため、パニックになってしまうことも。
まずスケジュールに変更があるときは事前に本人に伝えることが大切です。その際、耳で聞いた情報を処理するのが苦手な傾向にあるので、絵や表にして視覚的に説明してあげると効果的です。
また次の行動にスムーズに切り替えられるよう、何かの行動に取り掛かる前には、終わる時間を時計やタイマーで示したり、終わった後の予定を伝えておくことが大切です。
感覚過敏
ASD(自閉スペクトラム症)の子どもたちは、本日の記事の聴覚過敏などを含め、視覚、触覚、味覚、嗅覚など、さまざまな感覚の領域で感覚に対する過敏さ、「感覚過敏」を抱えていることが多いです。例えば、一般的な音が非常に大きく聞こえたり、光の刺激が過度に強く感じられるなどが感覚過敏として挙げられます。
特定の音や場所、活動を避ける傾向は、単なる気まぐれやわがままとは異なり、深い理由が考えられます。叱っても解決しないため、環境を調整する方法を模索することが大切です。
聴覚過敏の場合、前述したヘッドホンやイヤーマフのようなツールを利用することで、苦手な音を遮断、低減させて快適に過ごす手助けができます。
まとめ
最後までご覧いただきありがとうございました。
本記事では自閉症の子どもと聴覚過敏について詳しく説明しました。一概に自閉症や聴覚過敏といっても症状の現れ方は人それぞれ異なります。
研究によれば、ASDの子どもたちの中で聴覚過敏の度合いが強いと、他のASDの症状も重症化する可能性があると指摘されています。また、過敏な反応はコミュニケーション能力や社会的相互作用にも影響を及ぼすと言われていますので、個別の対応やサポートが求められています。環境の調整や適切な支援を通じて、ASDの子どもが快適に日常生活を送るためのサポートをしていきましょう。