本記事では、発達障害の子どもが服に強いこだわりを持つ理由や、対処法についてご紹介します。
自閉症スペクトラム障害(ASD)の子どもに見られる「こだわり行動」についての基礎知識と、それに対する対応方法を紹介します。
発達障害によるこだわりは、性格的なものだけではなく、他の要因も影響しています。
このこだわりにどのように対処するか、そしてその原因は何かについて、解説します。
記事の後半では、発達についての相談先などもご紹介します。是非最後までご覧ください。
発達障害の子どもが服装にこだわる理由
発達障害の子どもたち、特に自閉症スペクトラム障害(ASD)を抱える子どもは、物事に対するこだわりが強かったり、感覚特性を抱えていることがあります。
そのため、衣服にも強いこだわりを持つことがあります。
例えば、
・チクチクとした素材のトレーナーやセーターを着ることが難しい
・手袋やマフラーを着けることができない
・帽子のゴムや日よけカバーが苦手
・真冬でも半袖を着たがる
等、そのこだわりは様々です。
特に感覚過敏は改善が難しく、成長に伴って自然と軽減されることがありますが、無理に苦手な服を着せることはストレスやパニックの原因となる可能性があるため、避けることが重要です。
感覚特性がある
特定の感覚(におい・音・触覚等)に対する苦手意識や好みは誰にでもありますが、自閉症スペクトラム障害(ASD)などの発達障害を持つ子供は、周囲の人と同じ刺激を受け取っても、脳が異なる捉え方をすることがあります。
そのため、些細な刺激でも、日常生活に支障をきたすほどの苦痛を感じたり、感覚的な苦手や好みは、通常の子供よりも強い傾向があります。
感覚過敏は、生活に大きな困難をもたらすほど感覚が非常に敏感である状態を指し、一方、感覚鈍麻は、感覚に著しい鈍感さが見られる状態です。
感覚過敏の例
・特定の衣服の肌触りが苦手で、その素材の服を着ることができない。
・洋服のタグや縫い目が気になり、苦痛に感じる。
感覚鈍麻の例
・寒さを感じにくく半袖しか着ない
強いこだわり
「強いこだわりを持つこと」は、自閉症スペクトラム障害(ASD)の大きな特徴です。
特定の対象に非常に強い執着を示すだけでなく、その変化を嫌がったり、同じ言葉や行動を繰り返したりすることがあります。
ASDの子どもは同じ服装をすることでいつもと一緒の安心感を得ていることもあります。
また、色も好きな色しか着ない、お気に入りのキャラクターが描いてあるものが好きなどの
こだわりがあることもあります。
自閉症スペクトラム障害(ASD)の「こだわり行動」とは?
前述の通り、発達障害の1つである「自閉症スペクトラム障害(ASD)」は、感覚や自分の好き嫌いに強いこだわりを持ちます。
この「こだわり」は、自閉症スペクトラム障害(ASD)の診断基準に含まれ、他の障害にはあまり見られないASDの大きな特徴です。
こだわり行動がある場合、特定の対象に非常に強い執着を見せるだけでなく、その変化を異常に嫌ったり、気に入った同じ行動を繰り返したりすることが起こります。
自閉症スペクトラム障害のお子さまのこだわり行動は、一見性格に由来するものと誤解されがちですが、実際には障害特性によるものです。周囲から理解されにくいこともありますが、本人も自らの意志で制御することが難しい場合があります。
こだわり行動は、脳の特性により、特定の対象に対する強い欲求が現れることに起因します。強制的に止めさせたり叱責したりしても、本人がコントロールできないため、繰り返し行われることがあります。その結果、失敗体験が積み重なり、大きなストレスとなることがあります。したがって、こうした行動に対する理解とサポートが重要です。
ASDとは?
自閉スペクトラム症(ASD:Autism Spectrum Disorder)は、発達障害の一種であり、個々の症状や特性が幅広く、症状の重さや範囲が個人によって異なります。
一般的に
・人とのコミュニケーションが難しくなる
・特定のことに強い執着を示したり、感覚過敏な面を持つ
といった特徴があります。
ASDの原因はまだ特定されていませんが、個々の遺伝的な要因や脳の発達に関する複雑な生物学的メカニズムによって先天的に引き起こされると考えられています。
そのため、親の育て方やしつけ方が原因ではありません。
ASDにはどんな特性があるの?
ASDには以下のような特性があります。
・変化を受け入れられない
自分なりのルールや習慣があり、その変化を受け入れることが苦手です。少しでもそのルールや習慣が変更されるとパニックになることもあります。
・同じことを繰り返す
気に入った遊びや刺激、行動を延々と繰り返すことがあります。また、単調な身体の動きを繰り返す「常同行動」が見られることもあります。
・新しいことや環境に拒否反応を示す
自分が経験したことのない環境や、見通しが立たない状況を受け入れることが難しく、その場にいることや参加を拒否することがあります。
こだわり行動の特徴と具体例
自閉スペクトラム症(ASD)においてよく見られる特徴と具体例です。
・特定メーカーの特定食品しか食べない、または偏食が見られる
・同じ洋服しか着たがらない
・アニメや動画の特定部分を何度も繰り返し見る
・食べるものや食べ方、食べる順番など一定のルールを守りたがる
・時間や予定通りに厳密に行動したがる
・自分の関心のある特定分野の話題を繰り返す
こだわりの対象は一人ひとり異なりますので、すべての子供に同じ症状が現れるわけではありません。
具体例を確認し、自閉症スペクトラム障害に当てはまるかどうかを確認する際の参考にしてください。
同じ服しか着ない子どもへの対応策
同じ服しか着ないからといって、強制的にやめさせようとすると、障害特性によるものであるため、逆に状況を悪化させてしまう場合もあります。どのように対応したらいいのか対応策をご紹介します。
あらかじめルールを伝える
その日の気温や天気に応じて服を変えることができない場合は、あらかじめルールを伝え、基準を設けておくと便利です。
たとえば、「朝7時の天気予報で最高気温が25度以上なら半袖を着る」というようにルールを作り、決まりづくりに慣れてきたら、「雨の日は…」「風が強い日は…」などの基準を追加していくことで、気温や天候に応じた服装がスムーズにできるようになります。
写真やイラストを使って具体的にイメージする
発達障害を持つ子どもは他人の感情や意図を読み取るのが難しく、「周りからの目」を意識することが苦手です。
服が汚れていたり、同じ服を着ていても、「自分にとって問題がない」と感じているため、他者が指摘する理由が理解できないことがあります。相手の立場になって考えることが苦手であり、他者が「不潔な人を見て、どう思うか」を想像することも難しいです。
身だしなみが整っている状態を具体的に説明し、写真をイラストを使って示すことで、身だしなみの整え方や服装を変えることの大切さが理解してもらえます。
不快な感覚を取り除くようにする
触覚過敏のある子どもの中には、服のタグや特定の生地が苦手な子どもが多くいます。
そのため、どのような感覚が不快かを観察して、「服のタグは切る」や「洋服を買うときは事前に試着する」や「下に肌着を着ること」などの対策をすることが効果的です。
触覚過敏の人のために、「シームレスソックス」という縫い目の凹凸がない靴下が売られています。靴下を着用しても縫い目が感じられず、靴下をすぐに脱ごうとするお子さんには、シームレスソックスがおすすめです。
親の気持ちを楽にする方法
子どもが同じ服ばかり着ていることに対して、親はみっともないと感じたり、恥ずかしく思ったり、違う服を着てほしいという気持ちを抱くことがあります。
しかし、発達障害のある子どもが特定の服にこだわる理由は、感覚過敏でピッタリした服が苦手だったり、同じ服を着ると安心感を得られるからなど、様々です。
親としては、違う服を着てほしいというこだわりを捨てて、子どものこだわりを許容してあげることも大切です。
長い目で見守る
セーターやマフラーなどのチクチクした感触は、発達障害のない子どもでも苦手なことがよくあります。できる限り無理強いは避け、子どもの感覚に配慮するようにしましょう。
こだわりは成長とともに少しずつ改善されることが多いため、現時点では「この子の特性だから」と受け入れ、見守ることも大切です。周囲の目が気になることもあるかもしれませんが、まずは子どもの気持ちに寄り添うように心がけてください。
こだわりを長所として捉える
こだわりを長所としてとらえてあげましょう。こだわりは「大事に思うことをやりきる力」です。
ASDの子供は興味を持ったことやこだわりに対しては、強い集中力を発揮します。周囲からの影響を受けにくく、周りに無理して合わせようとすることがないため、決めたことに対しては、その集中力や行動が継続し、反復実践しやすい特性があります。
同じ服を複数枚購入しておく
色や素材のこだわりが特に強い場合は、着られる服を複数用意するのが効果的です。また、今着ている服が小さくなったときのために、ワンサイズ大きい服も同時に準備しておくと良いでしょう。
決まった服をローテーションで着るようにする
子どもにとっても、お母さんにとっても一番安心なのは、毎日同じ服をローテーションで着る方法です。洗濯ができなかったり、服を汚してしまったりした場合でも、予備の服があれば安心です。そのためには、子どもが着られると感じる服を複数用意しておくことが重要です。
子どもの発達障害に悩んだらどこに相談したらいいの?
育児の悩みに関して相談したい場合や子どもの発達について不安を感じた場合、家庭で抱え込まず、以下のような専門機関の相談窓口を活用することがおすすめです。
専門家や機関に相談することで、子どもの発達に関する問題や悩みを適切に評価し、必要な支援や治療を受けることができます。
医療機関
医療機関は、最終的に発達障害かどうかの診断や判断する際に必要な知能検査などの心理検査を実施する場所です。
精神科医、小児科医、神経科医、発達科医などの専門家によって行われ、一般的に、大きな病院や大学病院の精神保健センターや発達障害専門のクリニック、子どもの発達相談窓口などが診断や相談の場となることがあります。
必要に応じて専門医による薬の処方も可能となります。
後ほど紹介する発達支援センターなどの相談窓口に相談し、病院を紹介してもらうこともできます。
地域の福祉担当窓口や相談機関
市区町村の子育て担当課や福祉担当課は、子育て支援や福祉サービスの提供を行う場所です。発達障害に関する相談も受け付けています。
こうした担当課では、専門的なカウンセリングや情報提供、必要な支援策の提案などを行っています。まずは市区町村の役所に問い合わせて、どのような相談窓口や支援サービスがあるかを確認してみましょう。
スクールカウンセラー
スクールカウンセラーは、学校内で生徒や保護者の心の健康や学習に関する支援を行う専門家です。彼らは、発達障害や育児に関する相談にも対応しています。
発達障害に関する相談では、生徒の特性やニーズに合わせた支援やアドバイスを提供し、学校生活や学習における困難を解決するためのサポートを行います。また、保護者への情報提供や連携も重要な役割です。
育児相談では、保護者が子育てに関する悩みや困りごとを相談できます。スクールカウンセラーは、生徒や保護者が安心して学校生活を送るために、心のサポートや適切な情報提供を行います。
児童相談所
「児童相談所」は、子どもや家族の健やかな成長をサポートするための機関です。
発達障害や育児に関する相談も受け付けています。発達障害に関する相談では、専門家が適切な支援やアドバイスを提供してくれます。
育児相談では、子育てに関する悩みや困りごとを相談できます。
相談内容や地域によっては、相談員や専門家が家庭訪問を行い、具体的な支援や情報提供を行ってくれることもあります。
身近な支援機関として、積極的に利用することで、安心して子育てを進めることができます。
発達障害支援センター
発達障害者支援センターは、発達障害を抱える子供や成人、そしてその家族に対する総合的な支援を提供する専門的な機関です。各都道府県や指定都市が、自ら運営するか、あるいは指定された社会福祉法人や特定非営利活動法人が運営しています。
これらのセンターは、発達障害を抱える個人やその家族が地域社会で豊かな生活を送ることができるよう、保健、医療、福祉、教育、労働などの関連機関と協力しています。地域全体の支援ネットワークを構築し、発達障害を抱える個人やその家族からのさまざまな相談に応じ、指導や助言を提供しています。
ただし、各センターの事業内容は地域によって異なります。人口規模や地域の面積、交通アクセスの状況、既存の地域資源の有無、自治体内の支援体制の整備状況などによって異なります。詳細な事業内容については、お住まいの地域の発達障害者支援センターに直接問い合わせてください。
まとめ
本日は同じ服しか着ない子供の心理や対処方法をご紹介しました。
社会での身だしなみや一般常識の習得は、明文化されていないため、ASDを抱える子どもにとっては理解が難しかったり、習得が遅れたりすることがあります。
社会に出ると、上司からの注意や、適切な服装についての不安などが発生することがあるので、身なりを整えることや場面に応じた振る舞いの必要性を子どものうちに理解することが重要です。
そのため、保護者はASDの特性について理解し、社会で適切に振る舞うためのサポートをしてあげましょう。こだわりはASDの代表的な特徴の一つであり、無理にやめさせることは大きなストレスを引き起こす可能性があります。将来的には、お子さまが社会で困難なく過ごせるようにするために、一つずつ「できること」を増やしていくことが重要です。
本記事を通して保護者の皆様が子供の成長を信じ、 子育てが楽しいものになるように願っています。