
「うちの子、他の子と少し違うかもしれない…」そう感じながらも、知的障害と発達障害の違いがわからず、戸惑っている親御さんは少なくありません。
言葉の遅れや学習のつまずき、対人関係の難しさ。その背景には、本人の努力不足ではなく「生まれ持った脳の特性」が隠れているケースがあります。
この記事では、知的障害と発達障害の違いを中学生でもわかる言葉で整理し、子どもに見られる共通の困りごとや、併存する場合の支援、家庭での接し方までを詳しく解説します。読み終える頃には、子どもへの理解が深まり、今日からできる具体的な接し方が見えてくるはずです。
知的障害と発達障害の違い

知的障害とは?定義と診断基準(DSM-5)
知的障害とは、おおむね18歳までの発達期に現れる、知的機能と適応機能の両方に明らかな困難がある状態のことです。
アメリカ精神医学会の診断基準「DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)」では、次の3つがそろったときに診断されます。
- 読み書きや計算、判断などの「知的機能」に困難がある
- 日常生活や社会生活を送るための「適応機能」に困難がある
- これらの症状が発達期(おおむね18歳まで)に始まっている
以前は知能指数(IQ)の数値だけで判断される傾向がありましたが、現在は「生活の中でどれくらい困っているか」という適応機能も重視されるようになりました。
つまり、IQが低めでも日常生活を問題なく送れていれば診断されないこともあり、逆にIQが境界域でも生活上の困難が大きければ支援の対象になります。
発達障害とは?定義と主な3タイプ
発達障害とは、生まれつきの脳機能の偏りによって、行動や対人関係、学習などに特徴的な困難が現れる状態の総称です。
日本の「発達障害者支援法」では、主に次の3つのタイプが代表的なものとして挙げられています。
| タイプ | 主な特性 |
| 自閉スペクトラム症(ASD) | 対人関係やコミュニケーションの難しさ、こだわりの強さ |
| 注意欠如・多動症(ADHD) | 不注意、多動性、衝動性 |
| 学習障害(LD/SLD) | 読む・書く・計算など特定の学習のつまずき |
※ASDは「Autism Spectrum Disorder」の略で、自閉症の幅広い特性をまとめた呼び方です。
発達障害の特性は一人ひとり違い、同じ診断名でも現れ方はまったく異なります。そのため「この子はASDだからこう」と決めつけず、その子自身の得意・不得意を丁寧に見ていくことが大切です。
知的障害と発達障害の根本的な違いは「知的発達の遅れの有無」
知的障害と発達障害の最も大きな違いは、「知的発達に全体的な遅れがあるかどうか」という点にあります。
知的障害は、考える・覚える・判断するといった知的機能そのものに全体的な遅れがある状態です。一方、発達障害は知的な発達には明らかな遅れがなく、特定の分野にだけ偏りやつまずきが現れる特性です。
たとえば、次のようなイメージで考えるとわかりやすいでしょう。
- 知的障害:全体的にゆっくりと発達していく
- 発達障害:得意な分野と苦手な分野の差が大きい(凸凹がある)
ASDの子の中には知的な遅れを伴わない子も多く、IQが平均以上でも対人関係や感覚の特性で強く困っているケースもあります。「知的な遅れがない=困っていない」ではないという点は、周囲が誤解しやすいポイントです。
DSM-5では知的障害も「神経発達症」に含まれる
実は近年、知的障害と発達障害は別物というより「同じ大きなグループに属する仲間」として整理されるようになってきました。
DSM-5では、知的障害(知的発達症)もASDやADHD、LDなどと同じ「神経発達症群」という大きなカテゴリーの中に位置づけられています。神経発達症とは、脳の発達過程で生じる特性によって、生活や学習に困難が現れる状態をまとめた呼び方です。
この変化が意味するのは、「知的障害も発達障害も、本人の努力不足やしつけの問題ではなく、生まれ持った脳の特性だ」という共通理解です。
親御さんが「育て方が悪かったのかな」と自分を責める必要はまったくありません。脳の発達の個性として受け止めることが、子どもへの適切な理解と支援の第一歩になります。
知的障害と発達障害に共通する子どもの困りごと

学習面のつまずき
知的障害と発達障害のある子どもには、形は違っても学習面でのつまずきが現れやすいという共通点があります。
なぜなら、情報を受け取る・理解する・表現するという学習に欠かせないプロセスのどこかに、特性による難しさがあるからです。
具体的には、次のような困りごとがよく見られます。
- 板書を写すのに時間がかかる
- 文章題の意味を読み取るのが難しい
- 漢字や計算の手順を覚えるのが苦手
- 長い説明を一度に理解できない
- 授業中に集中が続かない
大切なのは、これらは「怠けている」「やる気がない」のではなく、本人なりに一生懸命取り組んだ結果の困りごとだという視点です。
「もっと頑張りなさい」と声をかける前に、どこでつまずいているのかを一緒に探してあげることで、子どもは安心して学びに向かえるようになります。
コミュニケーションの困難
言葉やコミュニケーションの難しさも、知的障害と発達障害の子どもに共通して見られる困りごとです。
知的障害の場合は語彙の少なさや言葉の理解の遅れが中心ですが、発達障害の場合は言葉は話せても「相手の気持ちを読み取るのが苦手」「言葉を文字通りに受け取ってしまう」といった特性が現れます。
たとえば、こんな会話のすれ違いが起こりやすくなります。
- 「ちょっと待って」と言われて、本当にずっと待ち続けてしまう
- 冗談を真に受けて傷ついてしまう
- 自分の気持ちをうまく言葉にできず、かんしゃくで表現する
- 相手の表情や声のトーンから感情を読み取れない
これらは本人にとっても「なぜ伝わらないのか」「なぜ怒られるのか」がわからず、とてもつらい経験です。周囲が「この子はこう受け取るのだな」と特性を理解するだけで、子どもの安心感は大きく変わります。
日常生活の自立に時間がかかる
着替え、食事、片付け、身だしなみといった日常生活の自立にも、定型発達の子より時間がかかる傾向があります。
これは、体の動かし方、手順の記憶、見通しを立てる力など、複数の機能が関わる活動だからです。どこか一つでも苦手さがあると、全体がうまく進まなくなってしまいます。
よく見られる具体例として、次のようなものがあります。
- ボタンを留める、靴紐を結ぶなど手先を使う作業が苦手
- 「お風呂に入って歯を磨いて寝る」など複数の手順を覚えられない
- 時間の感覚がつかみにくく、準備に時間がかかる
- 持ち物の管理や整理整頓が難しい
ここで親が覚えておきたいのは、「年齢相応にできない=遅れている」ではなく、「この子のペースで少しずつ身についていく」という視点です。
できないことを叱るより、できたことを一緒に喜ぶ姿勢が、子どもの「やってみよう」という気持ちを育てていきます。
知的障害と発達障害は併存することがある

一人の子どもに両方の特性が見られるケース
知的障害と発達障害は、一人の子どもに同時に見られることも珍しくありません。
特にASDの子どもの中には、知的な遅れを伴うタイプと伴わないタイプがあり、前者は「知的障害を併存するASD」として支援を受けることになります。ADHDや学習障害でも、知的障害と重なっているケースは一定数あります。
具体的には、次のような姿で現れることがあります。
- 知的な発達がゆっくりで、さらに人との関わりも独特
- 会話はできるが、読み書きに強い苦手さがある
- 多動や衝動性が目立ち、同時に理解にも時間がかかる
このような場合、一つの診断名だけでは子どもの姿を十分に説明できません。「知的障害だから」「ASDだから」と一つの枠で捉えるのではなく、その子が何に困っているかを丁寧に見ていくことが、本当の支援につながります。
併存している場合に困りごとが複雑になる理由
知的障害と発達障害が併存している場合、それぞれの特性が重なり合うことで、困りごとがより複雑になる傾向があります。
たとえば、知的障害による「理解のゆっくりさ」にASDの「こだわりの強さ」が加わると、新しいことを受け入れるのに大きな時間とエネルギーが必要になります。ADHDの「衝動性」が加われば、本人もコントロールできないまま行動に出てしまい、周囲とのトラブルにつながることもあります。
主な理由は次のとおりです。
- 特性が複数あることで、支援の工夫も複数必要になる
- 一つの方法では対応しきれず、個別性が高くなる
- 本人の「うまくいかない」という感覚が積み重なりやすい
このため、併存している子どもの支援は「一人ひとりに合わせたオーダーメイド」が基本になります。診断名で判断するのではなく、目の前の子どもの姿から必要な支援を考える姿勢が大切です。
二次障害を防ぐための対応策
併存するケースで特に気をつけたいのが、「二次障害」の予防です。二次障害とは、生まれ持った特性そのものではなく、周囲の無理解や失敗体験の積み重ねによって後から生じる、心の不調や問題行動のことです。
具体的には、次のようなものが挙げられます。
- 自己肯定感の極端な低下
- 不登校や引きこもり
- うつ状態や不安障害
- 反抗的な態度や攻撃的な行動
二次障害を防ぐために、家庭や学校でできる対応策は次のとおりです。
- 「できないこと」より「できたこと」に注目して認める
- 子どものペースに合わせた目標を設定する
- 安心して失敗できる環境をつくる
- 早めに専門機関や医療とつながる
もともとの特性は変えられなくても、二次障害は周囲の関わり方で予防できます。これは親御さんにとって、とても希望のあるメッセージではないでしょうか。
知的障害・発達障害のある子どもが利用できる支援

療育手帳と精神障害者保健福祉手帳の違い
障害のある子どもが利用できる手帳には複数の種類があり、知的障害と発達障害では申請する手帳が異なります。
主な違いを表にまとめると、次のようになります。
| 項目 | 療育手帳 | 精神障害者保健福祉手帳 |
| 対象 | 知的障害のある人 | 発達障害を含む精神障害のある人 |
| 判定基準 | 知的機能と適応機能 | 精神障害の状態と生活の困難さ |
| 名称 | 自治体により「愛の手帳」などもあり | 全国共通の名称 |
| 主な支援 | 福祉サービス、税の減免、交通機関の割引など | 福祉サービス、税の減免、就労支援など |
知的障害と発達障害が併存している場合は、両方の手帳を取得できるケースもあります。
どちらの手帳も、取得すれば経済的な負担を軽くし、必要な福祉サービスにつながりやすくなる大切な制度です。「手帳を持つこと」に抵抗を感じる親御さんもいますが、子どもの将来の選択肢を広げるための道具と捉えてみてください。
児童発達支援・放課後等デイサービスの活用
未就学児から高校生までの子どもが利用できる福祉サービスとして、児童発達支援と放課後等デイサービスがあります。
それぞれの対象と内容は次のとおりです。
- 児童発達支援:未就学の子どもが対象。日常生活の基本動作や集団生活への適応を支援
- 放課後等デイサービス:小学生から高校生までが対象。放課後や長期休暇中に、生活能力の向上や余暇活動を支援
これらのサービスを利用するには、お住まいの市区町村で「受給者証」の発行を受ける必要があります。医師の診断書がなくても、発達に心配がある段階で相談できる場合が多いので、まずは窓口に問い合わせてみましょう。
事業所によって、運動中心、学習中心、個別療育中心など特色がさまざまです。見学や体験を通して、子どもが安心して通える場所を選ぶことが何より大切です。
特別支援教育(通級指導・支援学級・支援学校)
学校での学びの場にも、子どもの特性に合わせた複数の選択肢があります。
主な3つの形を整理します。
- 通級指導教室:通常学級に在籍しながら、週に数時間だけ別教室で個別指導を受ける
- 特別支援学級:少人数クラスで、その子に合わせたペースと内容で学ぶ
- 特別支援学校:より専門的な支援と教育課程が用意された学校で学ぶ
どの場を選ぶかは、子どもの特性や発達の状態、本人や家族の希望をふまえて、学校や教育委員会と相談しながら決めていきます。
大切なのは、「どの場を選ぶか」よりも「その子がのびのび学べるか」という視点です。途中で学びの場を変えることもできるので、「一度決めたら終わり」と気負わず、子どもの様子を見ながら柔軟に考えていきましょう。
まず頼れる窓口はここ
「どこに相談していいかわからない」という親御さんのために、まず頼れる窓口をまとめます。
- 市区町村の子育て支援窓口・保健センター:乳幼児健診の延長で気軽に相談できる
- 児童発達支援センター:発達に関する相談と支援の専門機関
- 発達障害者支援センター:発達障害に特化した相談機関(各都道府県に設置)
- 教育相談センター:就学や学校生活に関する相談
- 子どものかかりつけ医・小児科:医療的な相談や専門機関の紹介
「まだ診断が出ていないから相談できない」ということは、まったくありません。「少し気になる」という段階からでも相談できるのが、これらの窓口の良いところです。
一人で悩みを抱え込まず、まずは話を聞いてもらうところから始めてみてください。
家庭で保護者が心がけたいこと

何が得意で何が苦手かに注目する
家庭での関わりで最も大切なのは、子どもの「得意」と「苦手」を具体的に把握することです。
なぜなら、知的障害や発達障害のある子どもは発達に凸凹があり、全体を「できる・できない」で見ると、その子の本当の姿が見えなくなってしまうからです。
観察してほしいポイントは次のとおりです。
- どんなときに集中できているか
- 何をしているときが楽しそうか
- どんな状況でつまずきやすいか
- どんな声かけだと動きやすいか
- 感覚の好き嫌い(音、光、触感など)
たとえば、「文字を読むのは苦手だけど、絵を見て理解するのは得意」とわかれば、視覚的な教材を使う工夫ができます。「大きな音が苦手」とわかれば、苦手な環境を事前に避けられます。
得意を伸ばし、苦手を工夫でカバーする。この視点が、子どもの自信と安心を育てる土台になります。
伝え方を工夫する
同じ内容でも、伝え方次第で子どもへの届き方は大きく変わります。
特に知的障害や発達障害のある子どもには、次のような工夫が有効です。
- 短く、具体的に伝える:「ちゃんとして」ではなく「本を棚に戻そう」
- 一度に一つずつ伝える:複数の指示を重ねない
- 視覚的な情報を添える:絵カード、写真、文字での手順表
- 肯定的な言葉を使う:「走らない」ではなく「歩こうね」
- 見通しを伝える:「あと5分遊んだら帰るよ」と事前に予告する
会話のイメージとしては、次のような違いがあります。
- ×「早くしなさい!なんでいつもそうなの?」
- 〇「長い針が6になったら、おもちゃを片付けようね」
「伝わらない」のは子どもの理解力が足りないのではなく、伝え方が特性に合っていないだけかもしれません。伝え方を変えるだけで、親子のやりとりが驚くほど穏やかになることがあります。
保護者自身が孤立しないために
子どもを支えるためには、まず保護者自身が元気でいることが何より大切です。
障害のある子どもの子育ては、定型発達の子の子育てとは違う悩みや負担があり、周囲に理解されずに孤独を感じやすい傾向があります。
孤立を防ぐために、次のような行動を意識してみてください。
- 同じ立場の親が集まる「親の会」に参加する
- 信頼できる専門機関や相談員と定期的につながる
- 家族内で役割を分担し、一人で抱え込まない
- レスパイト(短期入所)などの福祉サービスで休息をとる
- SNSや書籍で他の家庭の経験に触れる
親が笑顔でいることが、子どもにとって一番の安心材料です。「頑張る」より「頼る」。「完璧な親」より「ほどよく休める親」を目指してみてください。
自分を大切にすることは、子どもを大切にすることと同じくらい価値のあることです。
まとめ

知的障害と発達障害の大きな違いは「知的発達の遅れの有無」ですが、どちらも生まれ持った脳の特性であり、本人の努力不足ではありません。
両者が併存することもあり、困りごとは複雑になりやすいため、二次障害を防ぐ関わりが大切です。療育手帳や児童発達支援、特別支援教育など利用できる制度は幅広くあります。
家庭では得意と苦手に注目し、伝え方を工夫しながら、保護者自身も孤立しない環境づくりを心がけていきましょう。




