
公園の砂や石まで、子どもはなぜ何でも口に入れてしまうのでしょうか。
誤飲の心配が絶えず、「私の育て方が悪いのかな」と自分を責めていませんか?
実はその行動、しつけの問題ではなく、子どもなりの発達上の理由や、生まれ持った感覚の特性が隠れているのかもしれません。
この記事では、行動の理由から発達障害との関係、そして今日から家庭で実践できる具体的な5つの対処法まで詳しく解説します。
一人で抱え込まず、子どもへの理解を深め、漠然とした不安を「親子で前に進む力」に変えるヒントを見つけてください。
なぜ?子どもが「何でも口に入れる」4つの理由

理由1:世界を知るための自然な発達段階(口腔期)
子どもが何でも口に入れてしまうのは、実は世界を学ぶための大切な行動かもしれません。
赤ちゃんは、大人のように手先を器用に使うことができないため、非常に敏感な口や舌を「第二の手」として使います。
これは「口腔期(こうくうき)」と呼ばれる、誰もが通る自然な発達のステップなのです。
口に入れることで、「これは硬いな」「こっちはザラザラする」「ちょっと冷たいぞ」といった物の性質を一つひとつ確かめ、脳に情報をインプットしています。
おもちゃをなめたり、自分の指をしゃぶったりするのと同じ、成長過程で見られる探求行動の一つです。
ですから、「おかしな癖」と捉える前に、まずは子どもなりの方法で一生懸命に世界を学んでいる姿だと理解してあげてください。
理由2:感覚のニーズを満たしたい(感覚探求)
口の中の刺激を強く求める「感覚探求」が、この行動の背景にあることも考えられます。
私たちには、触覚や味覚など様々な感覚がありますが、その感じ方には個人差がとても大きいのです。
特にお口の感覚が少し鈍感なタイプの子どもの場合、普通のおもちゃでは物足りず、もっと強い刺激を求めてしまうことがあります。
例えば、公園の砂のジャリジャリとした感触や、石のひんやりとして硬い歯ごたえは、子どもにとって非常に魅力的で面白い刺激に感じられます。
これは、自分の感覚的な欲求(ニーズ)を満たそうとする自然な行動です。
この感覚への欲求は、発達に特性のある子どもによく見られますが、もちろん定型発達の子どもにも見られる行動ですよ。
理由3:不安や気持ちを落ち着かせたい(自己刺激行動)
もし特定の状況で口に入れる行動が頻繁に起こるなら、それは不安やストレスを自分自身で和らげようとしているサインかもしれません。
静かな場所ではしないのに、騒がしいショッピングモールや初めての場所へ行くと、急に地面のものを口に入れようとすることはありませんか。
これは「自己刺激行動」と呼ばれ、単調な動きや感覚刺激によって、高ぶった気持ちや不安を落ち着かせ、安心感を得るための行動です。
大人が緊張した時に貧乏ゆすりをしたり、ペンをカチカチと鳴らしたりするのと似たようなメカニズムだと考えてください。
「ダメ」と叱る前に、「この子は何に対して不安を感じているんだろう?」と子どもの心の状態に目を向けてあげることが、解決への第一歩になります。
理由4:物の特性が理解できていない(認知の課題)
「これは食べ物で、あれは食べ物ではない」という区別が、まだはっきりとついていない可能性も考えられます。
大人は一瞬で石とクッキーを見分けられますが、物の名前や役割、カテゴリーを理解する力(認知機能)が発達途中の子どもには、それが難しい場合があります。
例えば、カラフルで良い香りのする消しゴムが、まるで美味しそうなお菓子に見えてしまうことがあるのです。
これは知的な遅れということではなく、経験や学習を通してこれから身につけていくスキルの一つです。
頭ごなしに叱っても、子どもはなぜ叱られたのかを理解できず、混乱してしまうかもしれません。
「これは食べられないものだよ」と、根気強く、具体的に教えていくアプローチが大切になります。
発達障害と「何でも口に入れる」行動の関係性

子どもの行動を前にして、「もしかして発達障害?」という不安がよぎるのは、決してあなただけではありません。
結論から言うと、「何でも口に入れる」行動だけで発達障害と診断されることはありません。
しかし、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)といった発達障害の特性と、この行動が関連しているケースがあるのは事実です。
例えば、「感覚探求」は、感覚の偏りを持つ自閉スペクトラム症の子どもによく見られる特性の一つです。
また、不安を和らげるための「自己刺激行動」も、同じく自閉スペクトラム症の特性として現れやすい行動です。
さらに、注意欠如・多動症(ADHD)の「衝動性(考えより先に行動してしまうこと)」という特性が、危険なものでも深く考えずにパッと口に入れてしまう行動に繋がることもあります。
大切なのは、この行動を「問題行動」として捉えるのではなく、「子どもの持つ特性のサインかもしれない」という視点を持つことです。
そうすることで、叱る子育てから、子どもの特性を理解しサポートする子育てへと、一歩前に進むことができます。
【実践編】今日からできる!具体的な5つの対処法

対処法1:【最優先】徹底した環境整備で物理的に防ぐ
まず何よりも先に、そして絶対に行ってほしいのが、徹底的な環境整備です。
子どもを叱り続ける前に、そもそも危険なものが口に入らない環境を作ることが、誤飲事故を防ぎ、親子の心を守るための最も確実な方法です。
まずは、子どもと同じ目線で部屋の中を見渡してみてください。
大人が気にも留めないような小さなボタン、硬貨、アクセサリーの部品などが、たくさん落ちていることに気づくはずです。
タバコや薬、洗剤、化粧品、そして特に危険なボタン電池などは、子どもの手が絶対に届かない戸棚や、鍵のかかる引き出しに厳重に保管しましょう。
「ダメ!」と100回叫ぶよりも、たった1回の環境整備の方が、はるかに安全で効果的です。
物理的に危険を遠ざけることが、お母さんの「ヒヤヒヤする時間」を減らし、心に余裕を生み出してくれます。
対処法2:口の欲求を「安全なもの」で満たしてあげる
子どもの「口に入れたい」という欲求そのものを、無理やり押さえつける必要はありません。
その欲求を否定するのではなく、「危険なもの」から「安全なもの」へと、そっと関心の対象を移してあげましょう。
つまり、口に入れても良い「代替品」を用意してあげるのです。
最近では、発達支援の現場でも使われている、安全な素材でできた様々な噛むためのおもちゃ(チューインググッズ)が市販されています。
また、昔ながらの歯固めも有効ですし、食事の際には少し歯ごたえのあるキュウリや人参のスティックなどをメニューに加えるのも良い方法です。
「これを噛むのはダメ」ではなく、「こっちの噛み心地の良いおもちゃなら、好きなだけ噛んでいいよ!」と、ポジティブな選択肢を提示してあげてください。
対処法3:口以外の「楽しい感覚遊び」に誘う
子どもが求めている刺激は、必ずしも口でなければ満たせないわけではありません。
口に向かいがちなエネルギーを、手や足、そして全身を使った他の「楽しい感覚遊び」に誘い、発散させてあげましょう。
子どもがどんな感覚を求めているかによって、様々な遊びが考えられます。
手触りを楽しみたい子には(触覚刺激)
- ひんやり冷たい感触の小麦粉粘土
- ドロドロ、にゅるにゅるのスライム遊び
- 温かいお湯での水遊び
体を動かしてスッキリしたい子には(固有覚・前庭覚刺激)
- 室内用のトランポリンでジャンプ
- 公園のブランコや滑り台
- バランスボールに乗って弾む
大切なのは、口に何かを入れようとした瞬間に、「ダメ!」と制止するのではなく、「あ!もっと面白い遊びをしようよ!」と、楽しい活動にさりげなく誘うことです。
子どもの興味を引く遊びを見つけることで、口への執着が自然と薄れていくことも少なくありません。
対処法4: 「ダメ!」を使わない肯定的な言葉がけ
「ダメ!」「やめなさい!」という否定的な言葉は、とっさに出てしまいがちですが、実はあまり効果的ではありません。
子どもは、何が「ダメ」なのかを具体的に理解できず、ただ叱られたという悲しい気持ちだけが残ってしまいます。
これからは、「ダメ」の代わりに「こうしてみようか」という肯定的な言葉がけを意識してみてください。
例えば、子どもが公園で石を口に入れようとしたら、慌てて駆け寄り「ダメ!」と叫ぶのではなく、優しく手を添えて「石さんは、お外にポイしようね。お口に入れるのは、お家に帰ってからリンゴさんにしよう」と伝えます。
そして、してほしい行動(石を離すこと)ができた瞬間に、「そうそう、上手!ありがとう」と思い切り褒めてあげるのです。
この肯定的なコミュニケーションは、「してはいけないこと」ではなく「どうすれば良いか」を教えるための最も効果的な方法です。
対処法5:「いつ、なぜ」を記録してパターンを知る
子どもの行動の裏にある「理由」を見つけるために、簡単な記録をつけてみることをおすすめします。
毎日でなくても構いません。口に入れる行動が気になった時に、スマートフォンや手帳にメモするだけで大丈夫です。
記録するポイントは、以下の5つです。
記録する項目 | 具体的な内容 |
いつ | 日時(例:8月26日 午前10時ごろ) |
どこで | 場所(例:近所の公園の砂場) |
何を | 口に入れたもの(例:砂) |
どんな状況で | 直前の出来事(例:他のお友達におもちゃを取られた直後) |
どうなった | 行動の後の様子(例:少し落ち着いたように見えた) |
これを続けると、「手持ち無沙汰になると指をしゃぶる」「疲れてくると服の袖を噛む」「不安なことがあると硬いものを口に入れる」といった、子どもなりの行動パターンが見えてくるでしょう。
パターンが分かれば、「そろそろ疲れそうだから休憩させよう」「不安になる前に、安心できるおもちゃを渡しておこう」と、先回りして対応できるようになります。
この記録は、後に専門機関へ相談する際にも、子どもの状態を正確に伝えるための非常に貴重な資料となります。
絶対に知っておきたい!誤飲・中毒と緊急時の対応

特に危険なものリスト
世の中には、万が一飲み込んでしまった場合に、命に危険が及ぶものが存在します。
これらだけは、何があっても子どもの手の届く場所に置かないでください。
誤飲してしまった可能性がある場合は、迷わず救急車を呼びましょう。
- ボタン電池
- 磁石(特に複数個)
- タバコ、吸い殻の入った液体
- 医薬品、洗剤、化粧品など:
- 尖ったもの(画鋲、釘、ガラス片など)
いざという時に、パニックにならず冷静に対応できるよう、以下の連絡先をスマートフォンの電話帳に登録し、冷蔵庫など目立つ場所にも貼っておきましょう。
ためらう必要はありません。少しでも「おかしい」と感じたら、すぐに電話してください。
- 救急車の要請
- 小児救急電話相談
- 日本中毒情報センター 中毒110番
ひとりで悩まないで。専門家という「チーム」を頼ろう

かかりつけの小児科医
まず最初に相談すべきは、子どもの成長をずっと見てくれている、かかりつけの小児科の先生です。
異食による栄養面の問題がないか、身体的な発達に影響が出ていないかなどを診てもらうことができます。
何よりも、一番身近な医療の専門家として、お母さんの不安な気持ちを受け止め、客観的なアドバイスをくれるはずです。
必要であれば、より専門的な検査や支援が受けられる地域の療育機関や専門医への紹介状を書いてもらうこともできます。
「こんなことで相談していいのかな」などと遠慮せず、まずは健診のついででも構いませんので、気軽に話してみてください。
地域の保健センター(保健師)
お住まいの市区町村にある保健センターも、子育て中の家族にとって非常に心強い味方です。
そこには、地域の子どもたちの発達や健康に関するプロである「保健師」がいます。
保健師さんは、医学的な視点だけでなく、福祉や生活の面からも包括的に相談に乗ってくれます。
「息子の行動が心配で…」と電話をすれば、面談の時間を作ってくれたり、家庭訪問に来てくれたりすることもあります。
地域の児童発達支援センターや、発達障害の診断ができる病院の情報にも詳しいため、具体的な次のステップへと繋げてくれる案内役にもなってくれます。
利用は無料ですので、一人で抱え込まず、ぜひ頼ってみてください。
児童発達支援センター
児童発達支援センターは、発達に気がかりのある子どもが、専門的な支援を受けながら通うことができる施設です。
ここには、体の使い方を指導する理学療法士や作業療法士、言葉の発達を促す言語聴覚士、心理面のサポートをする臨床心理士など、様々な分野の専門家がいます。
専門家による客観的な評価(アセスメント)を通じて、子どもの行動の背景にある感覚の特性などを詳しく調べることができます。
そして、その評価に基づいて、子ども一人ひとりに合った個別の支援計画を作成し、感覚統合療法など専門的なアプローチでサポートしてくれます。
親向けのペアレントトレーニングなどを実施している施設も多く、家庭での関わり方のヒントもたくさん得られます。
放課後等デイサービス
子どもが小学生以上の場合には、放課後や夏休みなどの長期休暇中に利用できる「放課後等デイサービス」という福祉サービスもあります。
これは、発達に特性のある子どもたちが、専門的な支援を受けながら安心して過ごせる「学童保育」のような場所です。
学習のサポートはもちろん、集団生活のルールを学んだり、コミュニケーションの練習をしたりと、社会性を育むための様々なプログラムが用意されています。
同じような特性を持つ友達と関わる中で、子ども自身が自分の得意なことや苦手なことに気づき、自己肯定感を高めていく場にもなります。
お母さんにとっても、学校が終わった後の数時間、専門家に子どもを任せられる時間は、心と体を休めるための貴重なレスパイト(休息)の時間となるはずです。
まとめ

子どもの「何でも口に入れる」行動は、決してあなたの育て方が悪かったわけでも、愛情が不足しているからでもありません。
それは、子どもなりの世界を知るための探求行動であり、感覚のニーズを満たすための表現であり、時には不安な心を落ち着かせるためのサインなのです。
この行動を無理にやめさせようと叱るのではなく、まずは誤飲の危険がないよう徹底的に環境を整えてあげてください。
その上で、口の欲求を安全なもので満たしてあげたり、他の楽しい感覚遊びに誘ったりと、子どもの気持ちに寄り添った対応を試してみてください。
そして何より、一人で悩みを抱え込まないでください。
かかりつけ医、保健師、療育の専門家など、あなたの周りには子育てをサポートしてくれる「チーム」がたくさんいます。
彼らを頼ることは、決して恥ずかしいことではありません。
この記事が、あなたの心を少しでも軽くし、子どもと笑顔で向き合うためのきっかけになれば、これほど嬉しいことはありません。