子どもと一緒にいるとき、電車の踏切の音など特定の音に耳をふさいだり、味やにおいに敏感で偏食が目立つといった経験はありませんか?
生活の中にはにおいや音、味、感触など様々な刺激がありますが、その「刺激」に対する感覚を脳が過剰に受け取ってしまう、「感覚過敏」と呼ばれる状態になることがあり、特に発達障害を抱える子どもは障害の特性からそのような状態になりやすいといわれています。
本記事では、感覚過敏とは何か、どのような影響があるか、そして日常生活でどのようにサポートできるのかをご紹介します。
感覚過敏と発達障害の関係
ASD(自閉スペクトラム障害)やADHD(注意欠陥多動性障害)などの発達障害がある場合、高い割合で、感覚過敏が見られることが多くの研究から明らかになっています。
感覚過敏の原因
感覚過敏の原因は多岐にわたり、原因が明確に解明されているわけではありません。
発達障害を含め、感覚過敏の原因として考えられることをいくつか紹介します。
・発達障害
発達障害のある人は、感覚に関する困難を抱えやすいとされています。
前述の通り、特にASDやADHDの人々が障害の特性から感覚過敏に悩まされることがあります。
・脳の機能
脳は音や光などの刺激のボリュームを調整し、適切な反応を生み出す機能を備えていますが、何らかの原因によってこの機能が適切に働かなくなったときに感覚過敏になることがあります。
・てんかんや片頭痛
てんかんや片頭痛により、脳の神経細胞が過敏になることがあり、感覚過敏の状態を引き起こすことがあります。
・身体的な疾患
感覚器官(目・耳・鼻など)の損傷、メニエール病、突発性難聴などの病気によって感覚過敏が引き起こされることがあります。
・ストレス
ストレスや不安は多くの感覚過敏の状態と関連しており、体調が悪い時や不安な状況下から感覚過敏が引き起こされることも。
他にもうつ病などの精神疾患、事故による脳へのダメージなどが感覚過敏の原因として挙げられます。
発達障害だと必ず感覚過敏があるの?
DSM-5(アメリカ精神医学会が作成する「精神疾患の診断・統計マニュアル」の第5版)では、
発達障害の特性のひとつとして、感覚過敏・感覚鈍麻のような感覚の異常があると記載されていますが、具体的で大規模な調査研究がまだ不足しており、どの程度の人がどのような感覚異常を経験しているかについての確かな情報は得られていません。
なので、発達障害のある人全てに必ず感覚過敏があるというわけではなく、感覚に関する苦しさを訴えない人も、発達障害の診断を受けているケースが多く見られます。
繰り返しになりますが、感覚過敏は様々な要因が組み合わさることで引き起こされるので、しっかりと原因を見極めることが重要です。
感覚過敏を引き起こしやすい発達障害の特性
下記のような発達障害の特性が、感覚過敏の原因になることがあります。
・脳の機能に偏りがあること
発達障害は生まれつきの脳機能の偏りと言われており、感覚の処理が他の人とは違うため、同じ刺激でも敏感に感じてしまったり、逆に感じにくいなどの症状が現れることがあります。
・感覚統合の難しさ
脳は異なる部分が協力して機能していますが、発達障害の場合、この協力が十分でなかったり、特定の脳の領域が異常に活発になることがあり、異なる感覚をまとめることが難しいため感覚過敏の症状が現れることがあります。
・人とのコミュニケーションの苦手さ
コミュニケーションのストレスや不安が感覚過敏の原因になることがあります。
主にASDやADHDなどの発達障害の特性が感覚過敏の原因になることがあり、特にASDの特性を持っているとより割合は高くなるといわれています。
感覚過敏の種類と特徴
感覚過敏とはなにか、種類や特徴について詳しく説明したいと思います。
感覚過敏とは
「感覚過敏」とは、病名ではなく特性を表す言葉です。
通常、多くの人は何かに軽く触れたり、突然音が聞こえたりしても、気に留めずに過ごすことができますが、「感覚過敏」がある人は、通常は無視できるような刺激も大きなストレスや苦痛になり、日常生活などでさまざまな困難が生じてしまいます。
感覚過敏にはいくつか種類があり、複数の感覚にわたって同時に起こることがあります。
ここからは、感覚過敏の種類とそれが引き起こす状態について詳しく説明していきます。
視覚過敏
「視覚過敏」は、視覚に対する過敏な反応のことで、光や色、物の動きなどに対して過敏な状態が特徴です。この状態における具体的な例として以下を挙げることができます。
・太陽の光や白い光など、まぶしい光を嫌がり、目をふさぐ。
・蛍光灯のちらつきなどが苦手
・一度に多くのおもちゃや人などが見えると混乱し、ストレスを感じる。
・真っ白の紙をまぶしく感じる
・人ごみの中に入ることができない。
感覚過敏の中でも、視覚過敏は気づきにくいとされています。これは、聴覚過敏が不快な刺激(大きな音が鳴るなど)が起きた直後に反応するのに対して、視覚過敏は蛍光灯のある部屋や直射日光が当たる場所など、不快な刺激が持続している状況の中で反応することが一般的であるためです。
聴覚過敏
「聴覚過敏」は、音に対して敏感に反応する状態を指します。
聴覚過敏に見られる具体的な状態としては以下が挙げられます。
・大きな音に敏感で、怖がることがある
・突然の音を嫌い、雷、サイレン、風船が割れる音などに過敏に反応する
・高い音を嫌い、笛やピアノの音などに敏感である
・特定の人の声や合唱での不協和音に我慢できない
・ドライヤーや冷蔵庫など、他の人が気にならない日常の音に対して怖がることがある
苦手な音としての例は下記のようなものが挙げられます。
・掃除機・バイク・ドライヤーの音
・冷蔵庫の音
・運動会のピストルの音
・非常ベルや校内放送などの大きな音
・合唱の不協和音
・スーパーなどの騒がしい場所
・赤ちゃんの泣き声
・大人数での会話
・子どもの声
・犬の鳴き声
味覚過敏
味覚過敏は、味に過敏な反応をすることを指します。
味覚過敏に見られる具体的な状態としては以下が挙げられます。
・食事中によく嘔吐反射が起こる
・他の人が気にならないような味を極端に嫌う
・特定の食べ物の味に強く不快感を抱く。あるいは特定のものだけしか味わえない。
嗅覚過敏
「嗅覚過敏」はにおいに対して敏感に反応する状態を指します。
嗅覚過敏に見られる具体的な状態としては以下が挙げられます。
・他の人が気づかないような匂いを嫌がる
・町中などでさまざまなにおいに敏感になったり、嫌がったりする
・特定のにおい、香水や柔軟剤などの強い香りが苦手
触覚過敏
「触覚過敏」は、他人との触れ合いや特定の感触に対して敏感である状態を表し、食べ物の食感や温度に関して過敏な反応を生じることがあります。
触覚過敏の具体例は以下のようなものが挙げられます。
・他人や物に触れることを避ける
・汚れることを極端に嫌がる
・特定の素材(シャツ、帽子、靴下など)の触り心地を嫌い、限られた服を好む
・粘土や砂場などの触覚遊びを避ける
動きやバランス感覚に関する過敏
これまで述べた感覚過敏は、通常の五感(聞覚、視覚、嗅覚、味覚、触覚)に関するものでしたが、感覚にはこれらの五感以外にも動きやバランスを感じる「前庭感覚」が存在します。
前庭感覚も同様に過敏になることがあると下記のような動きやバランスに関する過敏が起こることがあります。
・激しい動きや自分が動かされる状況を嫌がる
・乗り物酔いを起こしやすい
・滑り台やブランコ、高い場所などの遊びが嫌い
各感覚過敏の対処方法
先ほどお伝えした様々な種類の感覚過敏にはどのように対処したらよいのでしょうか?
まず、感覚過敏の対策として、大切なのは「不安の解消」です。
共通で挙げられる対策を紹介します。
・安心感をもたらすグッズの使用:
子供が好きな感覚のグッズを用意し、常に携帯できるようにしておきましょう。
・不快な刺激から離れられる場所を用意
外では難しいですが、自宅や学校では不快な刺激から離れることができる場所を作っておくことがおすすめです。
・睡眠や食事などの日常生活を規則正しく行い、予測可能な環境を提供する
・絵や言葉を使って子供が感情を表現できる手段を提供し、コミュニケーションを図る。
ここからは各感覚過敏ごとに対処方法をお伝えします。
視覚過敏の場合
視覚過敏に対しては、以下の対策が考えられます。
・遮光カーテンや間接照明を導入して、環境中の光の刺激を調整する。
・サングラスや色眼鏡、帽子、サンバイザーなどを使用してまぶしい光を和らげる。
・視覚刺激の少ない場所で定期的に休憩をとる
・自宅のインテリアはシンプルな色、子どもの好みの色にする
聴覚過敏の場合
聴覚過敏に対しては、以下の対策が考えられます。
・イヤーマフやノイズキャンセリングイヤフォンなどを使って外部の騒音を軽減する。
・音の少ない場所で過ごし、リラックスできる空間を確保する
・音楽やホワイトノイズなどを使用して、外部の不快な音を遮蔽する。
・椅子の足に音がしなくなるシートを貼る
・運動会のピストルなどは笛や旗などに変えてもらう
味覚過敏の場合
味覚過敏に対しては、以下の対策が考えられます。
・料理ごとにお皿を分けて提供し、食べ物の味が混ざるのを防ぐ。
・子供に料理に参加してもらい、食べ物の調理に興味を持たせる。
・大人がおいしそうに食べてみせる
・特別な食事イベントを企画し、楽しみながら食べる環境を整える。
嗅覚過敏の場合
嗅覚過敏に対しては、以下の対策が考えられます。
・アロマや好きな香りを使って、環境中のにおいに対処する。
・好きな香りの食材を積極的に取り入れ、食事がより楽しくなるようにする。
・お皿を分けて提供し、食べ物のにおいが混ざるのを防ぐ。
触覚過敏の場合
触覚過敏に対しては、以下の対策が考えられます。
・歯磨きや洗髪などの感覚が気になる作業は、子供が自分で行うことで受け入れやすくなることがある
・子供が好きな布やタオルを持ち歩く
・子供の好みに合わせて衣服の素材を選び、着心地を重視する
・触覚に慣れるために、触覚遊びを取り入れて楽しみながら経験させる
・異なる感触の物を触れる機会を増やし、感触の違いを理解させる
動きに関する過敏の場合
動きに関する過敏に対しては、以下の対策が考えられます。
・自分で揺れや動きをコントロールできるようにし、安心感を持たせる。
・安定感のある椅子やクッションを用意して、座っているときの不安定感を軽減する
・子供の好みに合わせたリズミカルな運動を導入し、楽しみながら前庭感覚を刺激する
感覚過敏の治療
感覚過敏は病気ではなく、発達障害・精神疾患・脳の病気等の症状なので、直接的な治療方法や治療薬はありません。
疲れやストレスが強くなると、感覚過敏が強くなることが多いので、疲れやストレスが増えないように睡眠や食事を工夫することで、感覚過敏の症状が緩和されることがあります。
子どもの感覚過敏は何科を受診したらいいの?
かかりつけ医がいない場合、発達の相談ができる小児科や児童精神科での相談をおすすめします。
また、発達障害の特性の特性による感覚過敏だと思っているものが、別の病気である可能性も否定できません。
過敏さに困っているものが視覚過敏の場合は眼科に、聴覚過敏・嗅覚過敏の場合は耳鼻科に相談するようにしましょう。
感覚過敏は無理に直そうとしなくてOK
感覚過敏は、脳の機能により引き起こされるため、その症状を直すことは難しいとされています。
特定の感覚に対して苦痛を感じたり、抵抗を示したりする場合、無理にその感覚を克服させようとするのではなく、その不快感を軽減させるための対処法や工夫を考えることが重要です。
お子さま一人ひとりが異なる特性を持っていることを考慮し、その特性に合った対応方法を見つけることで、お子さまがより良い生活を送るためのサポートが可能となります。
最終的な目標は、「生きやすさ」を向上させることにあります。
まとめ
本日は発達障害と感覚過敏の関係や、対策について解説しました。
感覚過敏には様々な種類が存在し、同時に複数の感覚過敏が重複することもあり、日常生活での困難や耐え難い苦痛、大きなストレスをもたらすことがよくあります。まずは本人が安心できる環境整備が対策の中心となります。
また、感覚過敏は、他者からは気づきにくく、本人も自覚がないことがあるため、周囲から「大げさに言っている」といった誤解を生む可能性があり、悪影響を与えかねません。
子どもが感覚過敏により困っている場合、感覚過敏に対する理解と適切なサポートが受けられるよう、医療機関や専門機関への相談をおすすめします。