ウィズ・ユー編集部 
「また負けた！もう嫌だ！と子どもがゲームでキレてしまう」
「ゲームのコントローラーを投げつけて、暴れ出してしまう…」
お子さんのこのような様子に、心当たりはありませんか？
発達障害のある子どもがゲームで負けた時に見せる激しい反応は、実は脳の特性による自然な行動であり、単なるかんしゃくやわがままではありません。感情のコントロールの難しさや、負けることへの耐性の不足など、発達障害特有の要因が深く関係しているのです。
この記事では、発達障害のある子どもがゲームで負けた時にキレてしまう理由を詳しく解説します。子どもの特性を理解し、適切な環境づくりを通じて、ゲームを健全に楽しめるよう、一緒に取り組んでいきましょう。
発達障害とゲームの関係
発達障害のある子どもたちは、ゲームにはまりやすい脳の特徴を持っています。ゲームで遊ぶと達成感や興奮を通常よりも強く感じ取り、夢中になりやすいのです。これは、脳内のドーパミンという物質の分泌調整が難しいことが関係しています。
また、発達障害のある子どもたちは、人とのコミュニケーションに苦手さを感じることが多くあります。その点、ゲームの世界は分かりやすいルールがあり、何をすれば良いのかが明確です。特にオンラインゲームは、直接人と会わなくても交流できるため、安心して楽しめる場所となっています。
感情のコントロールの難しさも、ゲームにのめり込みやすい原因の一つです。学校や家庭でストレスを感じた時、その気持ちをうまく処理できずに、ゲームで気分を紛らわそうとすることがあります。このような対処方法が習慣になると、困ったことがあるたびにゲームに逃げ込む悪循環に陥りやすくなってしまいます。
特に自閉スペクトラム症（ASD）のある子どもは、興味を持ったものに強くこだわる特徴があります。ゲームの派手な映像や音は強く印象に残りやすく、一度夢中になると、他の活動に興味を持てなくなることがあります。
このように、発達障害のある子どもたちはゲームに夢中になりやすい特徴を持っています。そのため、ゲームとの付き合い方について、子どもの特徴を理解した上で、早めに適切なサポートを始めることが大切です。ただゲームを制限するだけでなく、子どもの気持ちに寄り添いながら、バランスの良い生活を送れるようサポートしていく必要があります。
発達障害の子どもがゲームに負けるとキレる理由
負けることへの耐性が不足している
発達障害のある子どもが負けることに強い抵抗を示す背景には、日常生活での様々な失敗体験や周囲からの叱られた経験が影響しています。特に、学校生活やコミュニケーションの場面で経験する挫折により、自己評価が低下しやすい傾向があります。
このような経験の積み重ねにより、「負けること」が単なるゲームの結果以上の意味を持つようになります。子どもたちは負けを自己否定や失敗と結びつけ、強い不快感を抱くようになるのです。
また、発達障害の特性として、物事を白黒はっきりと捉える思考パターンがあります。そのため、「勝ち＝良いこと」「負け＝悪いこと」という極端な考え方に陥りやすく、負けを受け入れることが極めて困難になります。
さらに、発達障害のある子どもは、負けた後の状況を具体的にイメージすることが苦手です。「次は頑張れば良い」といった前向きな発想に切り替えることが難しく、その場のネガティブな感情に支配されやすくなります。
感情のコントロールが難しい
発達障害のある子どもは、脳の特性により感情のコントロールが特に難しい傾向にあります。ワーキングメモリの容量が少ないため、ゲーム中に生じる様々な情報を処理しながら、自分の感情を適切にコントロールすることが困難です。
特に、ゲームでの予期せぬ展開や負けそうな状況に直面したとき、感情を言葉で表現することができず、怒りという形で表出されやすくなります。例えば、コントローラーを投げる、大声を出す、周囲の人に八つ当たりするといった行動として現れることがあります。
また、学校生活や日常的な人間関係でのストレスが蓄積されている場合、ゲーム中の些細なきっかけで感情が爆発しやすい状態になります。これは、脳の感情制御機能が十分に発達していないことに加え、日常的なストレスや疲労が重なることで、感情の閾値が下がっているためです。
このような状況に対しては、感情の温度計を使って自分の気持ちを視覚化したり、深呼吸などのクールダウン方法を事前に決めておくなどの工夫が効果的です。また、ゲームを始める前にルールを明確にし、負けそうになった時の対処方法を具体的に決めておくことで、感情的になりにくい環境を整えることができます。
先を見通す力が弱い
発達障害のある子どもは、先を見通す力が弱いため、ゲームでの負けを経験した際に適切な対処が難しい状況に陥りやすい傾向があります。特に、時間の見積もりや状況判断が苦手なため、ゲームの展開についていけなくなることがあります。
この特性は、実行機能の一つである「プランニング」の弱さに関連しています。ゲームで負けた後にどうすればよいか、次の行動を具体的に想像することができず、その場の感情に支配されやすくなります。
また、行動の切り替えが苦手なため、ゲームの世界から現実世界への移行がスムーズにできないことも多くあります。負けた後も「もう一回」と執着してしまい、周囲が止めても気持ちを切り替えられない状態に陥りやすいのです。
さらに、状況を正しく理解して判断する力も十分に発達していないため、ゲームの負けという一時的な出来事を、極端に重大な失敗として受け止めてしまうことがあります。このような認識の歪みが、感情的な反応をより強めてしまう要因となっています。
発達障害の子どもがゲームで負けるとキレる場合の対策
負けることを経験する場を提供する
発達障害のある子どもが負けを受け入れられるようになるためには、段階的な経験の積み重ねが重要です。まずは「あっちむいてほい」や「じゃんけん」など、シンプルで短時間で終わるゲームから始めることをおすすめします。これらのゲームは、負けても次の勝負にすぐに移れるため、感情の切り替えがしやすい特徴があります。
負けの経験を重ねる際は、子どもの耐性に合わせて慎重に進めることが大切です。例えば、10回のゲームのうち1回だけ負ける機会を作るなど、最初は負けの頻度を最小限に抑えます。これにより、子どもは少しずつ負けることへの抵抗感を減らしていくことができます。
家族との安全な環境でゲームを行うことも効果的です。信頼できる大人と一緒に遊ぶことで、子どもは感情的になっても受け入れてもらえるという安心感を持つことができます。負けた際には「悔しかったね」と共感しつつ、「次は頑張ろう」という前向きな声かけをすることで、次への意欲を引き出すことができるでしょう。
このような段階的な支援を通じて、子どもは徐々に「負けても大丈夫」という感覚を身につけていきます。ただし、一人一人の特性や受け入れられる程度は異なるため、焦らず子どものペースに合わせて進めていくことが重要です。
負けても楽しめる要素を取り入れる
発達障害のある子どもが負けても楽しめるゲーム体験を作るには、遊び方を工夫することが重要です。特に「にらめっこ」のような、負けることで笑いが生まれるゲームは効果的です。負けた人が笑顔になることで、「負け＝嫌なこと」という固定観念を自然と和らげることができます。
また、家族全員でのジャンケン大会も有効な方法です。ただし、通常のジャンケンではなく、「全員同じ手を出すまでジャンケンを続ける」といったルールにアレンジすることで、勝ち負けよりも一緒に遊ぶプロセスを楽しめます。
さらに、「脱出！おばけ屋敷ゲーム」のような協力型のボードゲームを取り入れることで、対戦による勝ち負けのストレスを避けることができます。みんなで協力して一つの目標を目指すことで、ゲームの本来の楽しさを体験できるようになります。
ゲーム中に歌を歌ったり、ポーズを取ったりするなど、遊びの要素を加えることも効果的です。これにより、勝ち負け以外の楽しみを見つけることができ、負けた時のショックを和らげることができます。特に、家族で一緒に遊ぶ時間を大切にし、和やかな雰囲気づくりを心がけることが重要です。
負けたときに前向きなフィードバックをする
発達障害のある子どもがゲームで負けた際、適切なフィードバックを行うことは非常に重要です。まず、子どもの気持ちに寄り添い、「悔しかったね」と共感することから始めましょう。子どもの気持ちに寄り添うことで、自分の感情が受け入れられていると感じ、より落ち着きやすくなります。
次に、負けた経験を前向きに捉え直す機会を提供しましょう。「次はどうしたら勝てるかな？」と問いかけることで、子どもは問題解決的思考を養うことができます。これは単なる慰めではなく、失敗を学びの機会として活用する重要なスキルを身につける助けとなります。
さらに、結果だけでなくプロセスに焦点を当てた評価を行うことが大切です。「最後まで諦めずに頑張ったね」や「難しい場面でも冷静に考えられていたね」など、具体的な行動を褒めることで、子どもの自己効力感を高めることができます。
また、大人自身が「負けても大丈夫」「負けることで新しい発見があるかもしれない」といった姿勢を示すことも効果的です。例えば、大人が負けた際に「残念だったけど、楽しかったな。次はもっと頑張ろう」と前向きな態度を見せることで、子どもは負けることへの恐れを和らげることができるでしょう。
このようなアプローチを通じて、子どもは徐々に負けることへの耐性を身につけ、ゲームを楽しむ本来の目的に焦点を当てられるようになっていきます。
負けたときの感情を言葉に表現する練習をする
発達障害のある子どもが感情をうまくコントロールするためには、感情を言葉で表現する練習が効果的です。まず、喜怒哀楽の感情カードを活用して、自分の気持ちを視覚的に認識する練習から始めましょう。これにより、子どもは自分の感情を具体的に理解しやすくなります。
負けた時は、静かで落ち着ける場所に移動して、ゆっくりと気持ちを言葉にする時間を設けることが大切です。この際、大人が「悔しかったね」「イライラしたね」と子どもの気持ちを代弁することで、感情表現の見本を示すことができます。
また、ロールプレイを通じて感情表現を練習することも効果的です。例えば、カードゲームで負けた場面を想定し、「次は頑張るぞ！」といった前向きな言葉に置き換える練習を繰り返し行います。練習を重ねるにつれ、子どもは少しずつ自分の感情を適切に表現できるようになっていきます。
感情表現の練習では、様々な場面での気持ちの変化にも注目することが大切です。同じゲームでも勝った時と負けた時では、どのような気持ちの違いがあるのかを子どもと一緒に振り返ってみましょう。
「勝った時はどんな気分？」「負けた時はどう感じた？」といった具体的な問いかけを通じて、子どもは自分の感情の変化に気づきやすくなります。このような対話を重ねることで、子どもは徐々に自分の感情を理解し、適切な形で表現できるようになっていきます。
発達障害の子どもがゲームに依存しないようにするには
ゲームの時間を制限する
発達障害のある子どものゲーム時間を制限する際は、単純な時間制限だけでなく、子どもの特性に合わせた工夫が必要です。特に、時間の概念を理解することが難しい特性があるため、視覚的なサポートを活用することが効果的です。
まず重要なのは、ゲーム機器を購入する時点で、ペアレンタルコントロール機能を設定することです。後から制限を導入すると子どもの反発を招きやすいため、最初からルールとして組み込むことが大切です。
また、時間制限を設ける際は、子どもと一緒にルールを決めることが重要です。例えば「平日は1時間まで」「宿題が終わってから」など、具体的な条件を設定します。特に発達障害のある子どもはあいまいな表現よりも明確な基準の方が理解しやすいため、キッチンタイマーなどで時間を可視化するのもおすすめです。
さらに、ゲーム時間の管理は家族全体で取り組むことが大切です。「夕方5時まで」というルールを設ける場合は、その時間に保護者が適切なサポートができる状況かどうかも考慮に入れる必要があります。子どもが約束を守れた際には具体的に褒め、時間管理のスキルを育てていくことが重要です。
家族全体でゲームのルールを話し合う
発達障害のある子どものゲーム利用について、家族全体でルールを決めることは非常に重要です。ただし、親が一方的にルールを押し付けるのではなく、子どもと一緒に話し合いながら決めていく必要があります。
まず、ルールを決める際は、子どもの意見を尊重しながら、1日の生活時間全体を見直していきます。睡眠時間、学校生活、勉強時間、食事の時間などを考慮しながら、実現可能なゲーム時間を設定しましょう。
決まったルールは必ず紙に書き出し、契約書のような形で残すことが大切です。口頭での約束だけでは「言った、言わない」のトラブルの原因となるため、視覚的に確認できる形にしておきましょう。
また、ルールを破った場合の対応についても、事前に家族で話し合って決めておく必要があります。例えば「3日間のゲーム禁止」などのペナルティを設定し、ルールを破った際は感情的にならず、淡々と約束通りの制限を実施します。
なお、環境の変化によってルールが現状に合わなくなることもあります。定期的に家族で話し合い、必要に応じてルールを見直していく柔軟な姿勢も重要です。このような継続的な対話を通じて、子どもは自己管理の力を身につけていくことができます。
ゲーム依存が疑われる場合は専門家に相談する
発達障害のある子どもがゲームに過度に依存している可能性がある場合、専門家への相談を検討することが重要です。特に、ゲームの時間や頻度をコントロールできない、日常生活よりもゲームを優先してしまうといった症状が12ヶ月以上続く場合は、専門機関への相談を考えましょう。
専門機関では、子どもの状態に合わせて個別の治療プランを提供します。例えば、認知行動療法を通じてゲームへの依存傾向を改善したり、生活記録表を用いてゲーム使用状況を客観的にモニタリングしたりする方法があります。また、家族カウンセリングを通じて、家族全体でのサポート体制を整えることもできます。
子ども本人が相談を拒否する場合でも、まずは保護者だけで専門家に相談することが可能です。専門家から適切な対応方法を学ぶことで、家庭でのゲーム使用ルールの見直しや、子どもとの効果的なコミュニケーション方法を見つけることができます。
また、発達障害とゲーム依存には関連性があることが指摘されており、発達特性に配慮した支援が必要です。専門家との相談を通じて、子どもの特性に合わせた具体的なルール作りや、ゲーム以外の興味・関心を広げる方法を見つけることができます。早期の専門家への相談が、より効果的な支援につながる可能性があります。
まとめ
発達障害のある子どもがゲームで負けた時にキレる反応は、脳の特性による自然な行動であり、叱ったり厳しい制限をしたりすることでは改善できません。感情コントロールの難しさ、先を見通す力の弱さ、そして負けることへの過度な不安など、様々な要因が関係しています。
これらの特性を理解した上で、適切な支援を行うことが重要です。負けを段階的に経験できる環境づくり、楽しみながら感情をコントロールする練習、家族での明確なルール設定など、子どもの特性に合わせた対応が効果的です。
また、子どもを一人で抱え込まず、必要に応じて専門家に相談することも大切です。焦らず、できることから少しずつ始めていくことで、必ず改善への道は開けます。子どもの発達特性を理解し、健全なゲームとの付き合い方を一緒に築いていきましょう。
