
「自分なんてどうせ無理…」そんなふうにネガティブな言葉ばかり口にする我が子を見て、どう声をかけてあげればいいのか、正解がわからず悩んでいませんか?
励まそうとしても拒絶され、親御さんまで自信を失ってしまうこともあるでしょう。
でも、その生きづらさは「性格」のせいではなく、練習すれば変えられる「考え方のクセ」が原因かもしれません。
この記事では、発達障害のある子どもの心を軽くする「認知行動療法」について、その仕組みから家庭でできる具体的な実践法までをわかりやすく解説します。
子どもが自信を取り戻し、親子で前向きな一歩を踏み出すためのヒントを、ぜひここで見つけてください。
認知行動療法とは?

こころの「クセ」に気づいて楽にする方法
子どもが「どうせ僕なんて何をやってもダメなんだ」と落ち込んでいる姿を見ると、親としても心が痛みます。
認知行動療法(CBT)とは、簡単に言うと「物事の受け取り方(認知)」のバランスを整えて、ストレスを軽くするトレーニングのことです。
私たちは何か出来事があったとき、それを「あるがまま」に見ているようでいて、実は自分専用の「色メガネ」を通して見ています。
例えば、テストで70点を取ったとき、「70点も取れた!」と喜ぶ子もいれば、「30点も落としてしまった…」と絶望する子もいます。
このとっさに頭に浮かぶ考え方のクセ(自動思考)に気づき、別の見方を見つけることで、辛い気持ちを楽にするのが認知行動療法の目的なのです。
「性格を変える」のではなく、「考え方のバリエーションを増やす」スキルを身につける練習だと考えてみてください。
心の中にある重たい荷物を、少しだけ持ち方を変えて軽くするような、そんな技術を子どもと一緒に学んでいきましょう。
カウンセリングや他の心理療法との違い
「カウンセリング」と聞くと、悩みをとことん話してスッキリさせるイメージが強いかもしれません。
一般的なカウンセリング(傾聴)は、話を聴いてもらうことで感情を浄化させることに重きを置きますが、認知行動療法はもっと「具体的で実践的な問題解決」を目指すアプローチです。
過去の生い立ちや原因を深く掘り下げる精神分析的な方法とも違い、「今、ここで起きている困りごと」に焦点を当てます。
具体的には、先生とのお話だけでなく、ホームワーク(宿題)が出たり、実際に苦手な場面で新しい行動を試してみたりする「練習」が含まれるのが大きな特徴です。
ただ受け身で癒やされるのを待つのではなく、子ども自身が「自分のこころの操縦士」になれるように、主体的に取り組むトレーニングだと言えるでしょう。
スポーツの練習のように、最初は難しくても、繰り返すことで少しずつコツを掴み、日常生活で自然と使えるようになっていきます。
なぜ今、子どもへの認知行動療法が注目されているのか
近年、教育や医療の現場で子どもへの認知行動療法が急速に注目を集めています。
その最大の理由は、子ども自身が一生使える「心の護身術」になるからです。
現代社会はストレスが多く、特に学校生活では人間関係や勉強など、子どもたちも多くのプレッシャーにさらされています。
親や先生がずっとそばにいて守ってあげることはできませんが、認知行動療法のスキルがあれば、子どもは自分ひとりの時でもストレスに対処できるようになります。
特に、自分の気持ちを言葉にするのが苦手な子や、物事を極端に捉えがちな子にとって、この手法は「生きやすさ」を手に入れるための強力な武器になるのです。
早期にこの考え方を身につけることで、思春期以降のメンタルヘルスの悪化を防ぐ「予防」としての効果も大いに期待されています。
発達障害(ADHD・ASD)の子どもに認知行動療法が効果的な理由

自分の気持ちを客観視する「メタ認知」を育てる
発達障害のある子どもたちは、自分の感情や行動を客観的に見ることが苦手な傾向があります。
ADHD(注意欠如・多動症)の子は衝動的に動いてから「しまった!」となることが多く、ASD(自閉スペクトラム症)の子は自分のこだわりやルールに没頭してしまいがちです。
認知行動療法では、自分の頭の中で何が起きているのかを紙に書き出したり、図にしたりして「見える化」する作業を行います。
このプロセスを通じて、自分を外側から眺める「もうひとりの自分(メタ認知)」を育てることができるのが、発達障害の子にとって非常に大きなメリットです。
二次障害(うつ・不安障害・不登校)の予防と改善
発達障害のある子どもは、その特性ゆえに集団生活で叱られたり、失敗したりする経験を多く積み重ねてしまいがちです。
度重なる失敗体験は、「どうせ自分はダメなんだ」「誰も僕のことを分かってくれない」という強い自己否定感を生み出し、やがて「二次障害」へと繋がってしまうことがあります。
二次障害とは、もともとの障害そのものではなく、環境との摩擦によって後から生じるうつ病、不安障害、不登校、引きこもりなどの状態を指します。
認知行動療法は、この「失敗体験によるネガティブな思い込み」の悪循環を断ち切るために非常に効果的です。
心の免疫力を高め、傷ついた自尊心を回復させることは、発達障害のある子どもが社会の中で自分らしく生きていくための土台になります。
薬物療法と併用することのメリット
医師から薬の服用を勧められている場合、「薬だけで治るのか」「薬に頼りきりでいいのか」と不安になることもあるでしょう。
実は、認知行動療法は薬物療法と組み合わせることで、さらに高い効果を発揮することが分かっています。
薬には、脳内の神経伝達物質のバランスを整え、衝動性や不安感などの症状を落ち着かせる即効性があります。
しかし、薬で症状が落ち着いても、「どうせ失敗する」という長年の思考のクセまでは、薬だけではなかなか治せません。
薬で土台となるコンディションを整え、その上で認知行動療法によって「考え方の工夫」を学ぶという「車の両輪」のアプローチが、最も効果的で再発もしにくいのです。
薬のおかげで落ち着いて考えられる状態だからこそ、新しい考え方を受け入れやすく、トレーニングの効果も定着しやすくなります。
「薬か心理療法か」の二者択一ではなく、それぞれの得意分野を活かして、相乗効果を狙っていきましょう。
効果が出やすい子・時間がかかる子の特徴
認知行動療法は万能な魔法ではなく、子どもによって向き不向きや、効果が出るまでのスピードには個人差があります。
一般的に、ある程度の言語能力があり、自分の気持ちを言葉で表現できる子や、論理的な説明を好むタイプの子は、比較的スムーズに取り組めることが多いです。
また、「今のままでは嫌だ、変わりたい」という本人のモチベーションが高い場合も、効果が現れやすくなります。
一方で、自分の内面を振り返るのが極端に苦手な子や、こだわりが強すぎて他の考え方を一切受け入れられない状態の子には、少し時間がかかるかもしれません。
また、年齢が低すぎる場合も、抽象的な概念を理解するのが難しいため、遊びを取り入れたり、親への指導(ペアレント・トレーニング)を中心に行ったりする工夫が必要です。
焦る必要はありません。その子の発達段階や特性に合わせて、スモールステップで進めていくことが、遠回りのようで一番の近道になります。
【実践編】子どもが行う認知行動療法の具体的な流れ

ステップ1:自分の「感情」と「体の変化」に気づく
まずは、自分が今「怒っている」「悲しい」など、どんな気持ちなのかに気づくことから始めます。「顔が熱い」「お腹が痛い」といった体のサインにも注目しましょう。
「今のイライラは100点満点で何点かな?」と数値化する「感情の温度計」を使うのも、自分の状態を客観視できて効果的です。
ステップ2:困った場面の「考え方」を捕まえる
辛い気持ちになった時、頭にパッと浮かんだ「考え」を捕まえます。例えば友達に挨拶を無視された時、「嫌われている」と思ったのか、「聞こえなかったのかな」と思ったのか。
紙に吹き出しの絵を描いて、その時の頭の中の言葉を書き出してみましょう。
ステップ3:別の考え方や行動の選択肢を探す
自分の考え方のクセに気づいたら、「それって本当かな?」「他の見方はできないかな?」と検討します。
「100%悪いこと」と決めつけず、「ただ気づかなかっただけかも」と別の可能性を探す「探偵ごっこ」を親子でしてみましょう。視野を広げることで気持ちが楽になります。
ステップ4:実際に試して「できた!」を積み重ねる
考え方を整理したら、実際に新しい行動を試してみる「行動実験」を行います。「もう一度声をかけてみる」など、できそうな小さな目標から始めるのが鉄則です。
「案外大丈夫だった」という成功体験を積み重ねることで、新しい考え方が定着し、自信につながります。
特性別・認知行動療法の活用ケーススタディ

ケース1:すぐにカッとなって手が出てしまう(ADHD傾向)
ADHDの衝動性が強いA君は、怒りのサイン(頭がカーッとなる等)に気づく練習から始めました。
「カッとしたら5秒数える」という行動ルールを決め、「からかわれた=バカにされた」以外の考え方(「遊びかも」)を用意することで、手が出る前に先生に相談できるようになりました。
ケース2:こだわりが強く、予定変更でパニックになる(ASD傾向)
予定変更が苦手なASD傾向のBちゃんには、事前に「晴れたら公園、雨なら図書館」というふうに、あらかじめ代わりの案(プランB)を用意しておく練習をしました。
「変更後のメリット」にも注目させ、視覚的なカードで予定変更を提示することで、「予定は変わるもの」という柔軟な認知を育てました。
ケース3:「どうせ僕なんて」と自己肯定感が低い(二次障害)
失敗体験から白黒思考に陥っていたC君には、「できたこと」と「できなかったこと」を冷静に分ける練習をしました。
「50点分は正解している」という事実に目を向け、親が結果より努力を褒め続けることで、「完璧でなくても大丈夫」という認知が芽生えました。
ケース4:特定の場所や場面への恐怖心が強い(不安症)
特定の場面に強い不安を持つDさんには、不安なことに少しずつ慣れていく練習を行いました。
「家で読む」など不安レベルの低いことから順に挑戦し、「怖かったけど大丈夫だった」という成功体験を積むことで、恐怖心は克服できるものだと体感できました。
家庭でできる!親がセラピストになるための関わり方

まずは子どもの「辛い気持ち」に共感し、妥当化する
家庭で認知行動療法の考え方を取り入れる際、親が最初にすべきことは、テクニックを教えることではなく、子どもの気持ちを受け止めることです。
子どもが「もう学校行きたくない」と言ったとき、すぐに「そんなこと言わないで頑張りなさい」と否定していませんか?
まずは「そっか、学校に行きたくないくらい辛いんだね」「嫌なことがあったんだね」と、その感情をそのまま受け入れ、共感することが何より大切です。
「あなたの気持ちは間違っていないよ」と認めてもらうことで、子どもは初めて安心し、親の言葉に耳を傾ける準備ができます。
テクニックを教えるのは、子どもが十分に安心感を得て、「話を聞いてみようかな」と思ってからでも遅くはありません。
親自身の「認知の歪み」にも気づくことが大切
実は、子どもの思考パターンは、親の考え方の影響を強く受けていることがよくあります。
「テストでいい点を取らなければ意味がない」「人には迷惑をかけてはいけない」といった親自身の「べき思考」が、子どもを苦しめている可能性もあります。
親自身が「ま、いっか」「そんなこともあるよね」と柔軟に考える姿を見せることは、どんな言葉よりも強力な手本になります。
親が自分の「認知の歪み(考え方のクセ)」に気づき、修正しようとする姿勢は、必ず子どもに伝わります。
完璧な親である必要はありません。一緒に成長していく仲間としての姿を見せてあげてください。
できたことに注目するごほうび活用
新しい考え方や行動にチャレンジするのは、子どもにとって勇気のいることであり、エネルギーを使うことです。
だからこそ、少しでもできたことがあれば、大袈裟なくらいにほめたり、ごほうびを与えたりして強化することが重要です。
ごほうびと言っても、高価なおもちゃである必要はありません。「好きなおかずを一品増やす」「シールを貼る」「寝る前に絵本を1冊多く読む」など、ささやかな楽しみで十分です。
大切なのは、「結果」ではなく「行動しようとしたプロセス」に対して報酬を与えることです。
「挨拶できたね!」「深呼吸して我慢できたね!」と具体的な行動を褒められることで、子どもは「この行動をすればいいことがあるんだ」と学習し、良い行動が増えていきます。
絶対にやってはいけないNGな声かけと態度
良かれと思ってかけた言葉が、かえって子どもを追い詰めてしまうこともあります。
最も避けたいのは、「そんなふうに考えるからダメなんだ」「もっとポジティブに考えなさい」と、子どもの思考や感情を否定・批判することです。
認知行動療法は、思考を矯正するためのものではありません。本人が楽になるための選択肢を増やすものです。
無理やりポジティブ思考を押し付けることは、子どもにとって「今の自分はダメだ」というメッセージになりかねません。
また、「なんでできないの?」と問い詰めるのもNGです。できない理由を探すよりも、「どうすればできそうかな?」「どこまでならできそう?」と、未来に向けた解決策を一緒に探る姿勢を忘れないでください。
親は裁判官ではなく、一番の応援団長であることを常に心に留めておきましょう。
子どもが認知行動療法を受けるには?相談先と選び方

医療機関(児童精神科・心療内科)
本格的に認知行動療法を受けたい場合、まずは児童精神科や心療内科などの医療機関が選択肢になります。
医療機関のメリットは、医師の診察に基づいて、医学的な観点から治療方針を立てられることです。
必要に応じて薬物療法との併用もスムーズに行えますし、保険診療の範囲内で受けられる場合もあります(※専門的なカウンセリングは自費の場合も多いので確認が必要です)。
ただし、児童精神科は予約が取りにくく、数ヶ月待ちということも珍しくありません。
また、診察時間が短く、じっくりとしたカウンセリング時間が確保できない場合もあるため、臨床心理士や公認心理師によるカウンセリングが併設されているかを事前にHPなどで確認することをおすすめします。
民間のカウンセリングルーム・療育機関
民間のカウンセリングルームや、発達支援センター、放課後等デイサービスなどの療育機関でも、認知行動療法を取り入れているところが増えています。
民間のメリットは、比較的時間をかけて丁寧に話を聞いてもらえる点や、土日や夕方など通いやすい時間設定がある点です。
特に、SST(ソーシャルスキルトレーニング)の一環として認知行動療法の要素を取り入れている療育施設は、集団の中で実践練習ができるため、発達障害の子どもにとって非常に有益です。
「発達障害児への支援経験が豊富か」「認知行動療法の専門的なトレーニングを受けているか」を問い合わせの際に確認してみるとよいでしょう。
スクールカウンセラーへの相談
多くの小中学校にはスクールカウンセラーが配置されており、無料で相談することができます。
学校生活での困りごと(友人関係、学習面など)については、学校の様子をよく知るスクールカウンセラーに相談するのが一番スムーズな場合があります。
先生との連携も取りやすく、学校での具体的な配慮をお願いする際の架け橋になってもらえることもあります。
ただし、カウンセラーが常駐していない学校も多く、相談できる回数や頻度が限られてしまうのがデメリットです。
まずは担任の先生や養護教諭に相談し、スクールカウンセラーとの面談の予約が取れるかどうかを確認してみましょう。
初期の相談窓口として活用し、必要であれば外部の専門機関を紹介してもらうという使い方も賢い方法です。
オンラインカウンセリングの可能性と注意点
最近では、ビデオ通話を使ったオンラインカウンセリングも普及してきました。
自宅というリラックスできる環境で受けられるため、外出が難しい不登校の子どもや、対面だと緊張してしまう子どもにとっては、ハードルが低く始めやすい方法です。移動時間が不要なため、忙しい親御さんにとっても利用しやすいでしょう。
一方で、画面越しのコミュニケーションでは、表情や細かなニュアンスが伝わりにくいという難点もあります。
また、子どもが途中で飽きてしまったり、集中できなかったりすることもあるため、画面越しでも子どもの興味を惹きつけられるスキルを持ったカウンセラーを選ぶことが重要です。
初回はお試し体験ができるサービスもあるので、まずは子どもとの相性を確認してみると良いでしょう。
まとめ

認知行動療法は、発達障害のある子どもたちが、自分自身の特性と上手く付き合いながら、社会の中で自分らしく生きていくための「地図」と「コンパス」のようなものです。
「認知」を変えるということは、自分を否定することではありません。
自分を苦しめる極端な色メガネを外し、世界をもっとカラフルで優しい場所として再発見する旅でもあります。
すぐに劇的な変化は現れないかもしれませんが、日々の生活の中で「あ、またこの考え方が出たな」「こう考えたら少し楽になった」という小さな気づきを積み重ねていくことが大切です。
子どもの「できた!」を一つずつ増やし、将来どんな困難があっても折れない「しなやかな心」を、今ここから一緒に育んでいきましょう。




