子どもの自尊感情が低いのはなぜ?発達障害の特性と家庭でできる育て方のヒント

泣いている女のこ

「どうしてうちの子は『どうせ自分なんて』が口癖なんだろう…」

子どもの自信のなさに、深く悩んでいませんか?

周りと比べて落ち込み、ほめても素直に受け取れない姿に、「育て方が悪かったのか」と自分を責めてしまうこともあるでしょう。

その自信のなさには、心の土台である「自尊感情」が、もしかしたら発達特性の影響も受けて育ちにくくなっている現実が隠れているかもしれません。

この記事では、子どもの自尊感情が低くなる原因を紐解きながら、家庭でできる具体的な声かけや「できた!」体験を積ませるヒントを徹底解説します。

「自尊感情」とは?自己肯定感との違い

手でハートを作っている女性

自尊感情の定義

「自尊感情」とは、一言でいえば「ありのままの自分を大切に思う気持ち」のことです。自分の長所も短所も、得意なことも苦手なことも全部含めて、「これが自分なんだ」と受け入れ、尊重する感覚を指します。

この感覚は、他人からの評価や、テストの点数のような「何かができる・できない」といった条件に左右されません。まさに、自分自身の存在そのものへの基本的な信頼感と言い換えられます。

子どもがこれから生きていく上で、困難にぶつかった時に「自分なら大丈夫」と信じて乗り越えたり、新しいことに挑戦したりする力の源になる、非常に大切な心の土台(基盤)なのです。

自己肯定感との違い

「自尊感情」と「自己肯定感」、この2つはとてもよく似ており、厳密な使い分けは難しいのですが、少しニュアンスが異なります。

一般的に、以下のように整理されることがあります。

言葉ニュアンス
自尊感情 (Self-Esteem)自分の存在そのものに価値があると感じる感情。「自分は大切だ」という感覚。
自己肯定感 (Self-Affirmation)自分の良い面も悪い面も、ありのままを受け入れる感覚。「こんな自分でもOKだ」という思考。

「自尊感情」が自分を尊重する「心(感情)」に近い一方、「自己肯定感」は自分を肯定的に受け入れる「頭(思考・感覚)」に近いとされます。

とはいえ、実際にはほぼ同じ意味で使われることも多く、どちらも「自分を信じ、大切にする力」として、子どもの心の成長に欠かせない要素であることに変わりありません。

子どもの自尊感情が低下しているサイン

ハートに絆創膏

子どもが「どうせ自分なんて」とすぐに諦めてしまう姿を見るのは、とても心配になります。

もしかしたら、それは子どもの自尊感情が低下していることを示すサインかもしれません。

他にも、以下のような様子が見られないかチェックしてみてください。

  • 失敗することを極端に恐れ、新しいことや難しそうなことに「やりたくない」と挑戦を避ける。
  • 友達や兄弟と自分をすぐに比べ、「〇〇ちゃんはできるのに、自分はダメだ」とひどく落ち込む。
  • ほめられても「そんなことないよ」「お世辞でしょ」と素直に受け取れず、自分を卑下する。
  • 自分の意見や「こうしたい」という気持ちを言えず、周りの顔色ばかりうかがってしまう。
  • わざと悪いことやふざけたことをして、親や先生の気を引こうとする(「注目されたい」という気持ちの裏返しの場合があります)。

こうしたサインは、子ども自身が「自分は大切にされていない」「自分には価値がない」と感じ始めているSOSである可能性があります。

発達障害の特性と自尊感情が低くなる原因

かがみ込む男の子

一般的な原因

子どもの自尊感情が育まれにくい背景には、日常生活での「うまくいかない体験」や「自分を否定される体験」の積み重ねが大きく影響しています。

例えば、親や周りの大人から叱られる経験が多かったり、友達との関係で劣等感を抱きやすかったりする環境が続くと、「自分は何をやってもダメな子だ」と思い込みやすくなります。

特に、親御さん自身が日々の忙しさや将来への不安から、つい子どものありのままを受け止める余裕を失い、「できていないこと」にばかり目がいってしまうことも少なくありません。

しかし、「自分の育て方が悪かったのでは」と自身を責める必要は全くありません

子どもが自信を失いやすいポイントや、その背景にある「つまずき」を理解することで、これからの関わり方を変えていくことができるのです。

発達障害の子ども:ADHD(注意欠如・多動症)の場合

ADHD(注意欠如・多動症)の特性である「不注意」「多動性」「衝動性」が、本人の意図とは関係なく、叱られる場面を増やしてしまいます。

例えば、以下のような特性による行動です。

  • 不注意: 忘れ物が多い、話しかけられても上の空に見える、集中力が続かない。
  • 多動性: 授業中や食事中など、静かに座っているべき場面でそわそわしてしまう。
  • 衝動性: 順番を待てない、友達の会話に割り込んでしまう、カッとなりやすい。

本人は一生懸命やろうとしているのに、特性によって「また忘れ物をしたの!」「どうして待てないの!」と毎日何度も注意を受けやすくなります。

こうした経験が続くと、「自分はいつも失敗する」「周りに迷惑ばかりかけているダメな子だ」という自己イメージが定着しやすく、自尊感情が大きく低下する原因となります。

発達障害の子ども:ASD(自閉スペクトラム症)の場合

ASD(自閉スペクトラム症)の特性である「対人関係の難しさ」や「強いこだわり」が、周囲とのズレを生みやすくなります。

例えば、以下のような特性です。

  • 対人関係: 場の空気を読むのが苦手で、相手が怒っていても気づかないことがある。冗談が通じず、言葉をそのまま受け取ってしまう。
  • こだわり: 特定の手順やルールに固執し、急な変更を極端に嫌がる(不安からパニックになることも)。
  • 感覚過敏: 特定の音や光、肌触りなどを非常に苦痛に感じるが、周りには「わがまま」と誤解されがち。

本人は真面目にルールを守ろうとしていたり、感覚的な苦痛に耐えていたりするだけなのに、周りからは「協調性がない」「頑固だ」と見られてしまいます。

「誰も自分のことを分かってくれない」「自分は周りとおかしいのかもしれない」という孤独感や疎外感が、自尊感情の低下に直結しやすくなります

発達障害の子ども:LD(学習障害/限局性学習症)の場合

LD(学習障害/限局性学習症)は、知的発達に遅れはないにもかかわらず、「読む」「書く」「計算する」といった特定の能力を習得することに著しい困難がある状態です。

他のことは問題なくできるため、周りからは「勉強をサボっている」「努力が足りないだけ」と深刻な誤解を受けがちです。

例えば、以下のような困難さを抱えています。

  • 読字障害 (ディスレクシア): 文字が歪んで見えたり、読むのに非常に時間がかかったりする。
  • 書字障害 (ディスグラフィア): 文字の形を思い出せない、鏡文字になる、マス目にうまく書けない。
  • 算数障害 (ディスカリキュリア): 数の概念や筆算、繰り上がり・繰り下がりが理解しにくい。

本人はどれだけ頑張ってもテストで良い点が取れず、周りからは「なまけ者」のレッテルを貼られてしまいます。その結果、「自分は頭が悪いんだ」という強烈な劣等感を抱きやすく、学習意欲と共に自尊感情も大きく損なわれてしまうのです。

子どもの自尊感情を育むための具体的な関わり方

ハートをもつ親子

「無条件の愛情」を言葉と態度で示す

子どもの自尊感情の土台となるのは、何よりも「無条件の愛情」です。

これは、「テストで100点を取ったから」とか「お手伝いをしたから」といった条件付きの評価ではなく、「あなたがあなたであるだけで大切だ」というメッセージを伝え続けることです。

子どもが「自分はここにいていいんだ」「何があっても親は自分を愛してくれている」と感じられる安心感が、心の基盤となります。テストの点数が悪くても、失敗をしても、子どもへの愛情は変わらないはずです。

その「変わらない愛情」を、ぜひ毎日の生活の中で具体的に示してあげてください。

結果ではなく「過程」や「努力」を具体的にほめる

「100点を取ってえらいね」という「結果」だけをほめ続けていると、子どもは「100点を取れない自分には価値がない」と感じ、失敗を極端に恐れるようになります。

注目すべきは、結果ではなく、そこに至るまでの「過程」や「努力」です。親が「見ているポイント」を結果から過程へシフトすることで、子どもは失敗を恐れず、「頑張っている自分」そのものに価値を見出せるようになります。

スモールステップで「できた!」という成功体験を積ませる

自信を失っている子どもには、「自分にもできる!」という小さな成功体験の積み重ねが何よりの特効薬となります。

いきなり「部屋を全部片付けなさい」といった高い目標を設定するのではなく、子どもが「これならできそう」と思えるレベルまで目標を細かく分解(スモールステップ化)することが重要です。

そして、その小さなステップがクリアできたら、「できたね!すごい!」「さあ、次はどうする?」と一緒に喜び、次への意欲につなげます。

この「できた!」という小さな経験の積み重ねが、「自分はやればできるんだ」という自己効力感(自分への信頼)を育て、次のチャレンジへの大きな力になります。

子どもの気持ちに共感し、感情を受け止める

子どもが「悔しい!」「悲しい」「もう嫌だ!」といったネガティブな感情を爆発させた時こそ、自尊感情を育む大切なチャンスです。

つい「そんなことで泣かないの!」「もっと頑張ればいいじゃない」と励ましたり、正論で諭したりしたくなるかもしれません。しかし、その前にまずやるべきことは、子どもの気持ちに「共感」し、そのままを受け止めることです。

「そっか、そんなに悔しかったんだね」「悲しい気持ちになったんだね」と、子どもの感情をそのまま言葉にして(オウム返しして)あげてください。

自分のつらい感情を親に否定されず、「わかってもらえた」という経験は、「こんな風に感じる自分でもいいんだ」という自己受容につながり、心の安定に不可欠です。

失敗を責めずに、次につながる「作戦会議」をする

子どもが失敗した時、例えばジュースをこぼした時に、「なんでこぼすの!」「またやった!」と責めてしまうと、子どもは失敗を隠したり、挑戦そのものを避けたりするようになります。

失敗は「悪いこと」ではなく、「どうすれば次はうまくいくかを学ぶ絶好の機会」であると捉え直すことが重要です。失敗を責めるのではなく、原因を分析して「次どうするか」を一緒に考える作戦会議をするのです。

この関わり方が、子どもに失敗を乗り越える力と問題解決能力を身につけさせます。

子ども自身に「選ばせる」「決めさせる」機会を作る

日常生活の中で、子ども自身が「選ぶ」「決める」という経験を積ませることは、「自分には物事をコントロールする力がある」という感覚(自己決定感)を育みます。

「あれしなさい」「こっちにしなさい」とすべて先回りして決めてしまうと、子どもは自分で考える力を失い、「どうせお母さん(お父さん)が決めるから」と受け身になってしまいます。

どんなに小さなことでも構いません。自分で選んで決めたことが尊重される経験は、「自分の考えや気持ちは大切にされているんだ」という実感につながり、主体性と自尊感情を同時に高めていきます。

他の子と比べず、その子の「過去」と比べる

子どもの自尊感情を最も傷つけるものの一つが、他の子との比較です。

悪気はなくても、「お兄ちゃんはできたのに、あなたはなんでできないの」「〇〇ちゃんはもっと早く終わったよ」といった言葉は、「あなたは〇〇ちゃんより劣っている」という強烈な否定のメッセージとして子どもに伝わります。

比べるべき相手は、他の誰かではありません。過去の子ども自身です。その子自身のできたことや成長した部分に焦点を当てることで、子どもは「自分はちゃんと前に進んでいるんだ」と実感し、揺るがない自信を持つことができます。

ほめ方・叱り方のコツ

グット

ほめ方の基本は具体的に、すぐに、心を込めて

子どもの自尊感情を育むために「ほめる」ことは大切ですが、効果的なほめ方には3つの基本ルールがあります。

それは、「具体的(What)に」「すぐに(When)」「心を込めて(How)」伝えることです。

「すごいね」「えらいね」といった抽象的なほめ言葉だけでは、子どもは何を認められたのか分からず、心に響きにくいことがあります。この3点を意識するだけで、ほめ言葉の「伝わり方」が格段に変わります。

子どもも「自分のことを見てくれている」と実感し、その良い行動が定着しやすくなります。

叱り方の基本は感情的にならず、短く、具体的に

叱る目的は、子どもの人格を否定することではなく、望ましくない行動を正すことです。

「もう知らない!」「本当にダメな子ね!」といった感情的な言葉は、子どもの心に「自分はダメな存在だ」という深い傷を残すだけです。

叱る際は、以下の点を鉄則としてください。

  • 感情的にならない: 親がカッとなった時は、まず深呼吸して冷静になります。
  • 短く、具体的に: 「〇〇したことは危ないよ(いけないよ)」と、問題の「行動(コト)」だけを短く伝えます。過去のことまで持ち出して、くどくどと説教しません。
  • 人格を責めない: 「あなたはいつもそう」といった人格否定は絶対に避けます。
  • 代替案を示す: 「(叩くのではなく)嫌な時は『やめて』って言葉で言おうね」と、次にどうすべきかを具体的に教えます。

「あなたのことが大好きだよ。でも、今の行動(コト)はいけないことだよ」というメッセージで伝えるのが理想です。

ケーススタディ:こんな時どうする?

頭では分かっていても、実際の場面ではどう対応すれば良いか迷うものです。

読者プロファイルの悩みにもあったように、「ほめても響かない」「すぐに諦めてしまう」といった子どもの反応には、発達の特性が関係しているかもしれません。

ここでは、特性の傾向別に具体的な対応例を見ていきましょう。

もちろん、すべての子どもがこのケースに当てはまるわけではありませんが、対応の「引き出し」を増やすつもりで参考にしてみてください。

ケース1(ADHD傾向)

【場面】: 宿題を始めたのに、すぐに他のことに気が散ってしまい、全く進まない。

NG対応: 「また集中してない!」「早くやりなさいって言ったでしょ!」

なぜNGか: ADHDの特性上、興味のないことに対して集中を持続させることが元々困難です。本人のやる気の問題ではないため、責められても「どうしようもない」と無力感を強めてしまいます。

OK対応: 「お、ドリルを開いたね!(行動の開始を認める)。まずはこの1番の問題だけやってみようか(タスクを最小化する)。」「それが終わったら、5分休憩しよう(見通しを立てる)」

ポイント: 集中が途切れることを前提に、環境を整える(机の上を片付ける、テレビを消す)ことや、タスクを極限まで細かく区切り(スモールステップ)、時間を短く設定することが効果的です。できたことをこまめに認め、「できた!」体験を積ませることで、モチベーションを維持しやすくします。

ケース2(ASD傾向)

【場面】: 公園で夢中になって遊んでいたが、帰る時間になっても「嫌だ!」とパニックになり動けない。

NG対応: 「わがまま言わないの!」「みんな帰るよ!」

なぜNGか: ASDの特性上、「活動の切り替え」が非常に苦手な場合があります。楽しい活動を急に中断させられることは強い不安を引き起こし、パニック(かんしゃく)につながります。

OK対応: (事前に)「時計の長い針が『6』(30分)のところに来たら、お家に帰るよ」と具体的に予告します。

(時間が近づいたら)「あと5分で終わりだよ」と声をかけます。

(時間になったら)「時間だね。最後にもう1回だけ滑り台やったら、おしまいにしようか(切り替えるための儀式・中間ステップを入れる)」

ポイント: ASD傾向の子どもには、「見通し」を立てさせることが非常に重要です。いきなり行動を遮断するのではなく、タイマーを使ったり、終わりの合図を具体的に決めたりすることで、心の準備ができ、スムーズに切り替えられることが増えていきます。

まとめ

ハートをもつ手

子どもの自尊感情を育むための関わり方は、結果として、親御さん自身の「子育ての自信」を取り戻すことにも深くつながっています。

「無条件の愛情」を土台にして、子どもが今まさに取り組んでいる「過程」を認め、昨日より今日できた「小さな成長」を一緒に喜ぶ。

その日々の地道な積み重ねが、子どもの「自分は自分でいいんだ」「自分は大切にされているんだ」という感覚、すなわち自尊感情を確実に育てていきます。

この記事で紹介したヒントが、子どものありのままの姿を認め、その子だけの素敵な個性を伸ばしていくためのきっかけとなれば、これほどうれしいことはありません。

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この記事を書いた人

ウィズ・ユー編集部

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