
「発達障害と診断された我が子。最近、なんだか元気がないし、笑顔も減った気がする…」思春期や反抗期だからと片付けがちですが、もしかしたらそれは、心が発しているSOSサインかもしれません。
学校生活でうまくいかない経験が続き、本人は自信を失っていく。親としてどう接すればいいのかわからず、周囲に相談もできずに一人で悩みを抱え込んでいませんか。
その元気のなさは、発達障害の特性が引き起こす「二次障害」としての「うつ」の初期症状である可能性があります。
この記事では、見逃しやすい子どものうつのサインから、その背景にある理由、そして二次障害を防ぐために家庭でできる具体的なサポート方法まで、わかりやすく解説します。
そもそも発達障害とは?病気ではなく「生まれ持った特性」

発達障害の定義
発達障害は、病気やしつけの問題ではなく、生まれつきの脳機能の偏りによって生じる「特性」です。得意なことと苦手なことの差が大きく、その特性ゆえに日常生活や学校生活で様々な困難を感じることがあります。
例えば、コミュニケーションをとることや、集中力を保つこと、感情をコントロールすることなどが苦手な場合があります。これは本人の努力不足や親の育て方が原因ではなく、脳の使い方が多数派の人とは少し違うだけなのです。
この「違い」を正しく理解し、その子に合った環境を整えてあげることが、本人の生きやすさに繋がります。発達障害を「治す」対象としてではなく、その子の個性として受け止め、どうすればその子が力を発揮できるかを考えることが大切です。
代表的な発達障害の種類
発達障害にはいくつかの種類があり、それぞれに異なる特性が見られます。代表的なものをいくつかご紹介しますが、複数の特性をあわせ持つ子どもも少なくありません。
一人ひとりの特性は多様で、グラデーションのように異なっていることを理解しておくことが大切です。
種類 | 主な特性 | 具体例 |
自閉スペクトラム症(ASD) | 対人関係やコミュニケーションの難しさ、強いこだわり | ・相手の気持ちを察するのが苦手・冗談や比喩が通じにくい・決まった手順やルールを重んじる |
注意欠如・多動症(ADHD) | 不注意(集中しにくい)、多動性(じっとしていられない)、衝動性(考えずに行動する) | ・忘れ物や失くし物が多い・授業中に席を立ってしまう・順番を待てずに割り込んでしまう |
学習障害(LD)/限局性学習症(SLD) | 知的な遅れはないのに、聞く、話す、読む、書く、計算するといった特定の能力に困難がある | ・文字を読むのに時間がかかる・文章を書くのが極端に苦手・簡単な計算がなかなかできない |
子どもの特性がどれに当てはまるかを知ることは、適切なサポートを見つけるための第一歩になります。
発達障害と「うつ」の密接な関係

発達障害のある子どもは、そうでない子どもと比べて、うつ病などの精神的な不調(二次障害)を抱えやすいことが知られています。
これは、発達障害の特性そのものが直接うつ病を引き起こすわけではなく、特性があることで生じる様々な困難が、結果的に心の負担となってしまうためです。
周りの環境とのミスマッチが続くと、子どもは常にストレスにさらされ、心も体も疲れ果ててしまいます。この状態が長く続くことで、不安障害やうつ病といった二次障害に繋がってしまう危険性が高まるのです。
「うちの子は元気だから大丈夫」と思っていても、気づかないうちに子どもの心には大きなストレスが蓄積しているかもしれません。
子どもの心の健康を守るためには、発達障害と二次障害の関係性を正しく理解し、早期にサインをキャッチして対応することが非常に重要になります。
なぜ発達障害の子どもはうつになりやすいのか?3つの理由

理由1:特性からくる「生きづらさ」とストレスの慢性的な蓄積
発達障害の特性は、日常生活の様々な場面でストレスの原因となり、それが慢性的に積み重なることで、うつ病のリスクを高めます。
例えば、聴覚が過敏な子どもは、教室のざわめきや給食の食器の音といった、他の人が気にも留めない音にさえ強い苦痛を感じています。また、場の空気を読むのが苦手なために友達との会話がうまく続かなかったり、自分の気持ちをうまく言葉で伝えられずにもどかしい思いをしたりすることも少なくありません。
これらの「生きづらさ」は毎日続くため、心身は常に緊張状態に置かれ、エネルギーを消耗し続けます。まるで、ずっと自分に合わないサイズの靴を履いて歩き続けているようなもので、やがては心も体も限界に達してしまうのです。
理由2:周囲からの無理解とネガティブなフィードバック
発達障害の特性は目に見えにくいため、周囲から「わがまま」「怠けている」「努力が足りない」と誤解されてしまうことが少なくありません。子ども自身は一生懸命やっているのに、先生から何度も注意されたり、友達から仲間外れにされたりといった経験を繰り返してしまいます。
このようなネガティブなフィードバックを受け続けると、子どもは「自分はいつも怒られてばかりだ」「誰も自分のことをわかってくれない」と感じるようになります。こうした経験は、子どもの心に深い傷を残し、世界は自分にとって安全ではない場所だという認識を植え付けてしまいます。
理解されない孤独感や、絶えず非難されることへの恐怖は、自己肯定感を著しく低下させ、うつ病の発症に繋がる大きな要因となるのです。
理由3:「自分はダメな人間だ」という自己肯定感の低下
慢性的なストレスと周囲からの無理解は、子どもの自己肯定感を根こそぎ奪っていきます。「何度言われても忘れ物をしてしまう」「みんなができることが自分にはできない」といった失敗体験が積み重なることで、次第に自信を失ってしまいます。
そして、何かうまくいかないことがあるたびに、「やっぱり自分は何をやってもダメなんだ」「自分なんていない方がいいんだ」と、自分自身を責めるようになってしまうのです。
このような自己否定的な考え方は、うつ病の典型的な症状の一つであり、物事をすべて悲観的に捉える思考パターンを生み出します。一度この負のスパイラルに陥ってしまうと、自分の力だけで抜け出すことは非常に困難です。
子どもが自分自身の価値を信じられなくなってしまう前に、大人がその存在を丸ごと肯定してあげることが何よりも重要になります。
【見逃さないで】子どもが見せるうつのサインとは?

身体にあらわれるサイン
子どものうつのサインは、まず体に現れることが多いため、日々の変化に注意深く目を配ることが大切です。以前と比べて明らかに様子が違うと感じたら、それは子どもからのSOSかもしれません。
特に、以下のようなサインが見られた場合は注意が必要です。
- 睡眠の変化: なかなか寝付けない、夜中に何度も目が覚める、逆に今まで以上に寝すぎる(過眠)
- 食欲の変化: 食欲が極端になくなる、あるいは逆に食べ過ぎてしまう。好きだったものが食べられなくなることもある
- 原因不明の体調不良: 頭痛、腹痛、吐き気、めまい、倦怠感などを頻繁に訴えるが、病院で検査しても特に異常が見つからない
- 表情の変化: 表情が乏しくなる、口数が減る、笑顔が少なくなる
これらの身体的なサインは、言葉でうまく不調を訴えられない子どもなりのサインであることを理解してあげましょう。
行動にあらわれるサイン
子どもの普段の行動にも、うつのサインは隠されています。これまで楽しんでいたことへの興味を失ったり、行動パターンが大きく変わったりしたときは、心のエネルギーが低下している証拠かもしれません。
次のような行動の変化に気づいたら、注意深く見守る必要があります。
- 好きだったことへの無関心: 今まで熱中していたゲームや遊び、趣味などに対して全く興味を示さなくなる
- ひきこもりがちになる: 友達と遊ばなくなり、自分の部屋に閉じこもる時間が増える。学校に行きたがらなくなる(不登校)
- 身だしなみを気にしなくなる: お風呂に入りたがらない、着替えをしない、髪がボサボサでも気にしないなど、清潔感が失われる
- イライラしやすくなる: ささいなことで怒りっぽくなったり、物に当たったり、家族に攻撃的な態度をとったりする
これらの行動は、単なる反抗期と見過ごされがちですが、背景に心の不調が隠れている可能性を考えてみてください。
言動・思考にあらわれるサイン
うつ状態になると、子どもの言葉や考え方にもネガティブな変化が見られるようになります。物事をすべて悲観的に捉え、自分を責めるような発言が増えてきたら、かなり心が追い詰められているサインです。
子どもの口から以下のような言葉が聞かれるようになったら、真剣に耳を傾ける必要があります。
- 自己否定的な発言: 「どうせ僕(私)は何をやってもダメ」「自分なんていなければいいのに」「生きていても意味がない」など、自分の価値を否定する
- 過剰な罪悪感: 何か悪いことがあると「全部自分のせいだ」と自分を責めてしまう
- 思考力・集中力の低下: ぼーっとしていることが増える、簡単な判断ができなくなる、テレビや本の内容が頭に入らない
- 「疲れた」「消えたい」: 明確な理由なく「疲れた」と口にしたり、「どこか遠くへ行きたい」「消えてしまいたい」といった言葉を漏らす
これらの言動が見られた場合は、決して聞き流さず真摯に子どもに向き合いましょう。
絶対に避けたいNG対応ワースト3

無理やり学校に行かせる・励ます
子どもが学校に行きたがらない時、良かれと思って「頑張って行こうよ」「みんな行ってるんだから」と励ましたり、無理やり行かせたりするのは逆効果です。
すでに子どもは心のエネルギーが枯渇し、学校という場所が大きなプレッシャーになっている状態です。
そこで無理強いをすることは、崖っぷちに立っている人の背中を押すようなもので、子どもをさらに追い詰めることになりかねません。
また、「頑張れ」という言葉は、これ以上頑張れない状態の子どもにとっては「あなたはまだ頑張りが足りない」というメッセージとして受け取られてしまいます。まずは「学校に行きたくないほど辛いんだね」とその気持ちを受け止め、子どもが安心して休める環境を確保することが最優先です。
原因を問い詰める
「どうして学校に行けないの?」「何かあったの?」と原因を問い詰めるのも避けたい対応です。
子ども自身も、なぜこんなに辛いのか、どうして気分が落ち込むのか、その理由をうまく説明できないことがほとんどです。原因がわからないこと自体が、本人にとって大きな不安や混乱の元になっています。
そこで親から繰り返し理由を問われると、答えられない自分を責めたり、「親を困らせている」と罪悪感を抱いたりしてしまいます。今は原因を探ることよりも、「何があってもあなたの味方だよ」というメッセージを伝え、子どもの心の安全基地でいることに徹しましょう。
気持ちが少し回復してくれば、子どもの方から話してくれるタイミングがくるかもしれません。
他のきょうだいや友達と比較する
「お兄ちゃんはちゃんと学校に行っているのに」「〇〇ちゃんはもっと頑張っているよ」といった、他の子との比較は絶対にやめましょう。
この言葉は、子どものプライドを深く傷つけ、「自分はきょうだいや友達よりも劣っているダメな人間だ」という劣等感を植え付けます。自己肯定感が著しく低下している状態の子どもにとって、他者との比較は百害あって一利なしです。
たとえ励ますつもりだったとしても、子どもには「今のあなたは認められない」という否定のメッセージとして伝わってしまいます。比べるべきは過去の誰かではなく、ほんの少しでもできたことを見つけて「昨日はできなかったのに、今日はここまでできたね」と、子ども自身の成長を認めてあげることが大切です。
二次障害としてのうつを防ぐために、親ができるサポート

子どもの「特性」を正しく理解する
二次障害としてのうつを防ぐ第一歩は、何よりもまず、子どもの発達障害の「特性」を親が正しく理解することです。なぜ忘れ物が多いのか、なぜ急な予定変更が苦手なのか、その行動の背景にある特性を知ることで、親の対応は大きく変わります。
例えば、聴覚過敏で騒がしい場所が苦手な子だとわかっていれば、人混みを避けたり、イヤーマフを使ったりといった配慮ができます。これは「甘やかし」ではなく、子どもが能力を発揮するために必要な「合理的配慮」です。
特性を理解することは、子どもへの無用な叱責を減らし、「わかってくれている」という安心感に繋がります。専門書を読んだり、支援機関のペアレントトレーニングに参加したりして、子どもの「取扱説明書」を一緒に作っていくような感覚で学びを深めていきましょう。
家庭を「安心できる安全基地」にする
学校や社会でたくさんのストレスにさらされている子どもにとって、家庭は唯一、ありのままの自分でいられる「安全基地」である必要があります。
どんなに外で失敗しても、家に帰れば受け止めてもらえるという安心感が、明日へ向かうエネルギーの源になります。そのためには、親が感情的に安定していることが不可欠です。
子どもの行動にイライラしてしまう時もあるかもしれませんが、そんな時は一度深呼吸をして、子どもの特性に思いを馳せてみてください。結果ではなく、子どもの頑張ろうとした気持ちや過程を認め、「いつもあなたの味方だよ」というメッセージを言葉と態度で伝え続けましょう。
スモールステップで自己肯定感を育む
自己肯定感が低下している子どもには、小さな成功体験を積み重ねて「自分にもできる」という感覚を取り戻させてあげることが重要です。目標設定の際には、いきなり高いハードルを設けるのではなく、子どもが少し頑張ればクリアできる「スモールステップ」を意識しましょう。
例えば、「明日は忘れ物をしない」ではなく、「明日は連絡帳だけはカバンに入れる」といった具体的な目標です。そして、それができたら「すごいね!できたね!」と思いっきりほめてあげてください。
この「できた!」という経験の積み重ねが、失われた自信を少しずつ回復させていきます。結果の大小ではなく、挑戦したことそのものを認め、子どもの自己肯定感を丁寧に育んでいくことが大切です。
子どもの「好き」や「得意」を伸ばす機会を作る
発達障害のある子どもは、苦手なことが多い一方で、特定の分野に突出した才能や強い興味を持っていることが少なくありません。苦手なことを無理に克服させようとするよりも、子どもの「好き」や「得意」なことを見つけ、それを存分に伸ばせる機会を作ってあげましょう。
好きなことであれば、子どもは驚くほどの集中力を発揮し、楽しみながら能力を高めていくことができます。得意な分野で成功体験を積むことは、「自分にはこれがある」という大きな自信と自己肯定感に繋がります。
親の価値観で判断せず、子どもが何に夢中になるのかをよく観察し、その情熱を全力で応援してあげてください。
学校や専門機関と連携する
子育ての悩みや不安を、ご家庭だけで抱え込む必要はありません。学校の先生やスクールカウンセラー、地域の支援センターなど、利用できるリソースは積極的に活用しましょう。学校には、子どもの特性や家庭での様子を具体的に伝え、どのような配慮が必要かを相談し、協力体制を築くことが大切です。
例えば、教室の座席を一番前にしてもらう、指示は短く具体的に伝えてもらうといった配慮で、子どもの学校生活の困難は大きく軽減されます。また、発達障害者支援センターや児童相談所、医療機関などの専門機関は、子育てに関する具体的なアドバイスや支援プログラムを提供してくれます。
一人で頑張りすぎず、専門家の力を借りることは、子どものためだけでなく、親自身の心の健康を守るためにも非常に重要です。
まとめ

発達障害のある子どもがうつになりやすいのは、決して本人の心が弱いからではありません。生まれ持った特性と、周囲の環境との間にミスマッチが生じ、長期間にわたって過大なストレスにさらされてしまうことが大きな原因です。
この記事でご紹介した、身体や行動、言動に現れる「うつのサイン」を見逃さず、NG対応を避け、子どもの心を回復させるためのサポートを実践してみてください。
そして何よりも忘れないでほしいのは、親であるあなた自身が、一人で悩みや責任を抱え込みすぎないことです。あなたが子どもの一番の理解者であり、心の安全基地であるためには、まずあなた自身の心と体が健康でなければなりません。
時には肩の力を抜き、専門家や周りの人を頼りながら、あなたと子どもが笑顔で過ごせる未来に向かって、あせらず一歩ずつ進んでいきましょう。