自分で決められない子どもの将来が不安… 発達障害の特性を理解して「決める力」を育む方法

しんどそうな男のこ

「今日の服、どっちにする?」「…どっちでもいい」。わが子のそんな一言に、つい溜め息をつき、「このままで、この子の将来は大丈夫だろうか」と、一人で不安を抱えてしまう親御さんは、決して少なくありません。

周りからは「優柔不断なだけ」「甘やかしているのでは?」と見られてしまいがちで、子どもの特性なのか、それとも自分の育て方に問題があるのかと、出口のない悩みに苦しんでしまいます。

でも実は、その「決められなさ」は、単なる性格の問題ではなく、脳の司令塔である「実行機能」の発達や、ADHD・ASDといった発達障害の特性が深く関わっていることが多いのです。

この記事では、まず子どもが「決められない」背景にある脳の仕組みを分かりやすく解説し、発達障害の特性が具体的にどのように決断のプロセスに影響するのかを、詳しくお伝えします。

自分で決められない子ども、考えられる3つの理由

野原で一人の少年

脳の司令塔「実行機能」がまだ発達途中だから

子どもがなかなか物事を決められない大きな理由は、脳の司令塔である「実行機能」が、まだ成長の真っただ中にあるからです。

実行機能とは、計画を立てたり、情報を整理したり、行動をコントロールしたりする、とても高度な脳の働きを指します。

この機能が宿る脳の前頭前野という部分は、実は20代頃までゆっくりと成熟していくため、子どもにとってはまだ未熟な状態なのです。

大人から見れば簡単な「おやつを選ぶ」という行為も、子どもにとっては「甘いもの?しょっぱいもの?」「量はどのくらい?」など、多くの情報を処理する必要があります。

この複雑な作業を実行機能がうまくさばききれないため、「うーん…」と固まってしまうのは、ある意味で自然なことなのです。

ですから、子どもの「決められない」姿は、性格の問題ではなく、脳が一生懸命成長している証拠と捉えることができます。

発達障害の特性が「決める」プロセスに影響している

もし子どもに発達障害の特性がある場合、それが「決める」というプロセスを、より一層難しくしている可能性があります。

発達障害の特性と「決められない」ことの関係を、代表的な2つの例で見てみましょう。

  • ADHD(注意欠如・多動性障害)の場合
    興味があちこちに飛びやすく、一つの選択肢をじっくり考え続けることが苦手です。頭の中が様々なアイデアで渋滞を起こし、どれを優先すれば良いかわからなくなります。
  • ASD(自閉スペクトラム症)の場合
    「絶対に失敗したくない」「一番良いものを選ばなければ」という完璧主義の傾向が強いことがあります。「もし間違ったらどうしよう」という強い不安が、決断への最後の一歩をためらわせるのです。

これらの特性は、本人のやる気や努力だけでコントロールできるものではなく、脳の働き方の違いから生まれています。

そのため、子どもの特性に合わせた理解とサポートが、「自分で決めたい」という気持ちを力強く後押しすることになります。

過去の経験から「決める自信」を失っている

子どもが何かを決めようとした時の、親御さんの無意識な言葉や態度が、子どもから「決める自信」を奪っていることも考えられます。

子どもは、大好きなお父さんやお母さんの反応を、驚くほど敏感に感じ取って自分の行動の指針にしています。

例えば、子どもが選んだ服に対して「えー、そっちにするの?」と少しでも否定的な表情を見せたり、「早く決めて!」と急かしたりした経験はありませんか。

こうした経験が積み重なると、子どもは「自分が選ぶと、お母さんは嫌な顔をする」と学習してしまいます。

その結果、自分の意見を表明することを恐れ、波風が立たないように「決める」こと自体を避けるようになってしまうのです。

子どもの「決められない」という態度の裏側には、過去の小さな傷つき体験が隠れているかもしれない、という視点を持つことが大切です。

「決められない」が引き起こすかもしれない3つの困難

泣いている女子学生

自己肯定感の低下と「指示待ち」人間になるリスク

自分で決める経験が不足すると、子どもの自己肯定感が育ちにくくなり、将来的に「指示待ち」の状態になってしまうリスクがあります。

「自分で選んで、行動できた」という小さな成功体験こそが、「自分はできるんだ」という自信、つまり自己肯定感を育むための栄養になるのです。

この貴重な経験が少ないと、「どうせ自分には何もできない」「誰かに決めてもらった方が楽だ」という無力感を抱きやすくなってしまいます。

その結果、学校生活や社会に出てからも、誰かの指示がなければ動けず、自分の頭で考えて主体的に行動することが難しくなるかもしれません。

子どもが自分の人生をたくましく歩んでいく力を育むためにも、子どものうちから「自己決定」の機会を大切にすることが求められます。

友人関係でのつまずき

自分の意見をなかなか言えないことは、友達とのコミュニケーションにおいて、つまずきの原因となってしまう場合があります。

子どもたちの世界では、「何して遊ぶ?」「次はどこに行く?」といった、自分の意思を示す場面が頻繁に訪れます。

その中で自分の希望を伝えられないと、周りからは「何を考えているかわからない子」と見られてしまうことがあるからです。

いつも「なんでもいいよ」と答えていると、最初は優しさだと思われても、次第に「つまらないのかな?」「もしかして、楽しくないのかな?」と誤解されかねません。

その結果、いつの間にか遊びの輪から少しずつ外れてしまい、寂しい思いをさせてしまうことにも繋がり得ます。

学習意欲や問題解決能力への影響

「決められない」という状態は、学習への意欲や、困難な壁に立ち向かう問題解決能力の発達にも、少なからず影響を及ぼすことがあります。

実は、日々の学習は「小さな決断」の連続で成り立っています。

自分で決める習慣がついていないと、難しい課題に直面した時に「どうせ無理だ」とすぐに諦めてしまう傾向が強まります。

自分なりの解決策を考え、試行錯誤する前に、考えること自体を放棄してしまうのは、非常にもったいないことです。

子どもの知的好奇心や粘り強さを育てるためにも、自分で考えて選ぶというプロセスそのものが、大切な学びの機会となります。

子どもの「決める力」を育む、親の関わり方7ステップ

笑顔のお母さんと子供

STEP1:まずは「選べる環境」を整える

子どもの「決める力」を育む第一歩は、親御さんが「選びやすい環境」を意識的に作ってあげることです。

いきなり「今日の服、どれにする?」とクローゼット全体を見せても、情報が多すぎて子どもは混乱してしまいます。

そうではなく、「この青いTシャツと、この白いTシャツ、どっちがいい?」というように、選択肢を2つか3つに絞って提示しましょう。

さらに、口で言うだけでなく、実物や絵に描いたカードを見せてあげると、子どもは視覚的に情報を捉えやすくなり、よりスムーズに選ぶことができます。

選択肢を具体的に、そしてシンプルにすることが、子どもが決断への一歩を踏み出すための大切な土台作りになります。

STEP2:「小さな成功体験」をたくさん積ませる

自分で決める自信は、「できた!」という小さな成功体験を積み重ねることで、少しずつ育っていきます。

そのためには、たとえどちらを選んでも生活に大きな支障が出ない、安全な場面で決める練習をさせてあげましょう。

例えば、今日のおやつの味、寝る前に読んでもらう絵本、お風呂に入れる入浴剤の種類などが、最適な練習の場となります。

そして、子どもがどちらかを選べたら、「自分で決められたね!すごい!」と、結果ではなく「決められた事実」そのものを具体的に褒めてあげてください。

この小さな「できた!」の繰り返しが、やがて大きな決断に立ち向かうための、心のエネルギーになっていきます。

STEP3:子どもの「好き・嫌い」という感覚を尊重する

子どもが発する「僕はこっちが好き」「私はこれがいいな」という素直な心の声は、何よりも尊重してあげてください

それは、子どもの個性そのものであり、自己肯定感を育む上で最も大切な「自分の感覚を信じる力」の源だからです。

もし、親御さんの好みとは違うものを選んだとしても、「そうなんだ、あなたはこれが好きなんだね」と、まずは一旦まるごと受け止める姿勢を見せましょう。

子どもの選択を否定することは、「あなたの感覚は間違っているよ」というメッセージとして伝わり、自分の気持ちに蓋をしてしまう原因になります。

自分の「好き」を安心して表現できる環境こそが、子どもが自分らしく生きるための土台を築くのです。

STEP4:考えるプロセスを「実況中継」してあげる

子どもは親の姿を見て学びます。親御さんが普段、どのように物事を決めているのか、その思考プロセスを「実況中継」してあげましょう。

例えば、スーパーで買い物中に「今夜は寒いから、体が温まるお鍋にしようかな。お野菜もたくさん食べられるしね」と、考えていることを口に出して聞かせます。

このように、なぜそれを選ぶのか、その理由やメリットを言葉にしてあげることで、子どもは「物事を決めるときは、こうやって考えるんだな」という具体的なモデルを学ぶことができます。

この「考えるお手本」を見せることは、子どもが自分一人で決断を下すための、素晴らしいトレーニングになるのです。

STEP5:時間で区切って、決断をサポートする

いつまでも決められずにいる子どもには、「時間で区切る」という方法がとても有効です。

例えば、「時計の長い針が6のところに来るまでに決めようか」と、具体的なタイムリミットを設定してあげます。

これは、子どもを急かすためではなく、ダラダラと悩んでしまう時間を防ぎ、「限られた時間の中で決める」という練習をするためです。

もし時間内に決められなくても、決して責めないでください。「よし、時間だ!じゃあ今日は、お母さんが選んだこっちにしてみようか!」と、明るくサポートしてあげましょう。

時間という区切りがあることで、子どもは決断への意識を集中させやすくなり、次のステップへ進むきっかけを掴めます。

STEP6:もし失敗しても、それを「学び」に変える声かけ

子どもが自分で下した決断が、もしうまくいかなかったとしても、それは「決める力」を育てる絶好のチャンスです。

例えば、子どもが選んだ薄着のせいで、外出先で「寒い」と感じたなら、「だから言ったでしょ!」と責めるのは絶対にやめましょう。

そうではなく、「本当に寒かったね。じゃあ次は、もう一枚厚手の服を重ねてみようか」と、一緒に次善策を考えるのです。

「今回の選択で、寒いことが分かったね。すごい発見だ!」というように、失敗を次の成功に繋がる貴重な「データ収集」ととらえさせてあげてください。

失敗を恐れずに挑戦できる安心感が、子どものチャレンジ精神をたくましく育てていくことになります。

STEP7:親自身が「完璧」を求めず、待つ姿勢を持つ

子どもの「決める力」を育む上で、実は最も大切なのが、親自身が「完璧」を求めず、子どもを信じて「待つ」姿勢を持つことです。

子どもが黙って考え込んでいる時間は、決して無駄な時間ではありません。頭の中で一生懸命、選択肢を比較検討しているのです。

親の不安やあせりは、言葉にしなくても子どもに伝わってしまい、かえってプレッシャーを与えてしまうことを忘れないでください。

「この子には、自分で決める力がちゃんと備わっている」と信じて、少し離れた場所からじっくりと見守る勇気が求められます。

子どもの「決める力」を奪ってしまう親のNG言動

子供にしつけをしているお母さん

「なんでもいいよ」と丸投げする

一見、子どもの自主性を尊重しているように聞こえますが、「なんでもいいよ」という言葉は、実は子どもを最も混乱させてしまう可能性があります。

選択肢が無限にある広大な海に、たった一人で放り出されるようなものです。どこへ向かえば良いのか分からず、途方に暮れてしまいます。

この言葉は、子どもにとっては「あなた自身で考えて」というポジティブなメッセージではなく、「考えるのが面倒だから、任せるね」という突き放しの言葉に聞こえることもあるのです。

本当に子どもの自主性を育みたいのであれば、「AとBならどっちがいい?」と具体的な選択肢を用意してあげることが、本当の優しさと言えるでしょう。

「早くしなさい!」と急かす、脅す

子どもがなかなか決められずにいると、親としてはついイライラして「早くしなさい!」と急かしてしまいがちです。

しかし、急かされたり、強い口調で言われたりすると、子どもの脳は不安や恐怖でいっぱいになり、思考が停止してしまいます。

「早く決めないと、おやつ抜きだよ!」といった脅し文句は、子どもの心を傷つけ、決めること自体にネガティブなイメージを植え付けてしまうだけです。

リラックスした安心できる環境でなければ、人は創造的な思考を働かせることはできません。

子どもを急かす前に、まずは親御さん自身が深呼吸をして、気持ちを落ち着かせることが大切です。

子どもの選択を頭ごなしに否定する、後から文句を言う

子どもが勇気を出して下した決断を、頭ごなしに否定することは、その子の自信の芽を摘んでしまう行為に他なりません。

「えー、そっちを選ぶの?センスないなあ」といった言葉は、子どもの自己肯定感を深く傷つけます。

また、一度は同意したにもかかわらず、後から「ほら、やっぱりあっちにしておけば良かったじゃない」と文句を言うのも避けるべきです。

これでは、子どもは「どうせ何をしても文句を言われるんだ」と感じ、自分で決める意欲を完全に失ってしまいます。

まずは「そう決めたんだね」と受け止め、その選択を尊重する姿勢を見せることが、信頼関係を築く上で不可欠です。

良かれと思って、親がすべて先回りして決めてしまう

子どものためを思うあまり、親がすべて先回りして決めてしまうことも、実は子どもの成長の機会を奪っています。

子どもが困らないように、失敗しないようにと親が準備した完璧なレールの上を歩かせることは、一見愛情深い行為に見えるかもしれません。

しかし、それは子どもから「自分で考えて、試行錯誤する」という、貴重な学びの機会を取り上げていることと同じです。

失敗は、決して悪いことばかりではありません。失敗から学び、次はどうすれば良いかを考える力こそ、本当に生きる力になります。

かわいい子には旅をさせよ、という言葉の通り、時には少し遠くから見守る勇気も、親の愛情の一つなのです。

まとめ

仲良しそうな家族3人

子どもの「決められない」という姿に、親御さんは大きな不安を感じてしまうかもしれません。

しかし、その背景には、脳の発達や生まれ持った特性が関係しており、決してあなたの子育てや、子どもの性格が原因ではないのです。

大切なのは、結果をあせるのではなく、子ども自身が「考え、選ぼうとした」そのプロセスそのものを認め、温かく応援し続ける姿勢です。

「決める力」は、一朝一夕に身につくものではなく、日々の小さな関わりの中で、少しずつ、しかし確実に育っていきます。

今日のおやつ選びでの小さな決断が、10年後、わが子が自分の人生を主体的に選び取る、たくましい力に繋がっていると信じてください。

親子で一緒に、楽しみながら、一歩ずつ前に進んでいきましょう。

この記事を書いた人

ウィズ・ユー編集部

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