
「こどもの発達が少し気になる」「周りの子と比べて言葉や行動がゆっくりな気がする」、そんなお悩みを抱えながら、日々子育てに奮闘されている親御さんは多いのではないでしょうか。
最近、育児メディアや書籍などで「非認知能力」という言葉をよく目にするようになったけれど、「勉強の成績は目に見えるけれど、非認知能力ってどうやって測るの?」「発達に特性があるうちの子でも、その能力を伸ばすことはできるのだろうか」と、漠然とした不安を感じていませんか。
本記事では、そんな疑問やお悩みをお持ちの親御さんに向けて、発達支援の観点から「非認知能力」の意味と、ご家庭で無理なく実践できる具体的な関わり方や声かけのコツを詳しく解説します。
この記事を読むことで、「非認知能力」がテストの点数では測れない生きるための土台であることを理解でき、今日からご家庭で実践できる具体的なアクションプランが見つかるはずです。ぜひ、お子さんの「生きる力」を育むためのヒントを見つけてください。
発達の偏りが気になるこどもの将来への不安と「非認知能力」

【お悩み事例】「うちの子、勉強以前に感情のコントロールやお友達との関わりが心配で…将来社会に出たときに生き抜く力は身につくのでしょうか?」
小学2年生になる息子のことで悩んでいます。息子は昔から言葉の発達がゆっくりで、少しこだわりが強いところがありました。最近は、学校の宿題にも全く集中できず、少しでも分からない問題があるとすぐに癇癪を起こしてしまい、プリントをぐしゃぐしゃに破ってしまうこともあります。
私としては、もちろん勉強の遅れも心配なのですが、それ以上に感情のコントロールがうまくできないことや、お友達との関わり方が気になっています。自分の思い通りにならないとすぐにお友達に手を出してしまったり、集団行動のルールが守れなくて学校でトラブルになってしまったりすることが増えました。
最近、育児雑誌やSNSなどで「これからの時代は非認知能力が重要だ」という特集をよく見かけます。忍耐力や協調性、やり抜く力、自分をコントロールする力が大切だと書かれているのを読むたびに、「うちの子はどれも当てはまらないのではないか」「周りの子とどんどん差が開いてしまうのではないか」と焦りを感じてしまいます。発達に遅れがあったり、「グレーゾーンかもしれない」と感じるうちの子でも、こういった非認知能力を伸ばすことはできるのでしょうか。
そのご心配は「非認知能力」に関する不安かもしれません。特性に合わせて、家庭で少しずつ育むことができます
親御さんが今抱えられている「感情のコントロールができない」「お友達とうまく関われない」「すぐに諦めてしまう」といったご心配は、まさに「非認知能力」が十分に育っていないことへの不安そのものと言えます。
「非認知能力」という言葉を聞くと、何か特別な幼児教育や高額な習い事をしなければならないのではないかと身構えてしまうかもしれません。また、発達に特性のあるこどもの場合、「定型発達のこどもに向けた一般的な育児書の方法では全くうまくいかない」と途方に暮れてしまうこともあるでしょう。
しかし、非認知能力は、生まれつきの才能や遺伝だけで決まるものではなく、日々の生活や周囲の大人との温かい関わりの中で、少しずつ後天的に育んでいくことができる能力です。そしてそれは、自閉スペクトラム症(ASD)やADHD(注意欠如・多動症)などの診断を受けているこどもや、発達の偏りが気になるグレーゾーンのこどもであっても全く同じです。
こども一人ひとりの特性や発達のペースに合わせて、無理のない範囲で、ご家庭で実践できる関わり方の工夫はたくさんあります。決して焦る必要はありません。お子さんの「今」の姿をしっかりと受け止め、スモールステップで少しずつ成長をサポートしていくことが、将来社会を生き抜くための確かな土台へと繋がっていきます。
あらためて知っておきたい「非認知能力」とは?テストの点数では測れない生きるための土台
近年、教育や子育ての分野で非常に注目を集めている「非認知能力」ですが、そもそも具体的にどのような能力を指すのでしょうか。
私たちの能力は、大きく「認知能力」と「非認知能力」の2つに分けられます。「認知能力」とは、IQ(知能指数)や学力テストの点数、読み書き、計算能力など、数値化して客観的に測ることができる能力のことです。これまでの日本の教育では、主にこの認知能力をいかに高く伸ばすかが重視されてきました。
一方、「非認知能力」とは、テストの点数や偏差値といった数値では測ることのできない、人間の内面的な特性や社会性に関わる能力の総称です。具体的には、「目標に向かって頑張り抜く力(忍耐力)」「自分の感情をうまくコントロールする力(自制心・自己統制)」「自分を価値ある存在だと信じる力(自己肯定感・自尊感情)」「他者と協力して物事を進める力(協調性・コミュニケーション能力)」「新しいことに挑戦しようとする意欲(好奇心・主体性)」などが含まれます。
非認知能力が注目されるきっかけの一つとなったのは、ノーベル経済学賞を受賞したアメリカの経済学者、ジェームズ・ヘックマン教授らの大規模な追跡研究です。彼の研究により、幼児期に質の高い教育環境で非認知能力をしっかりと育まれたこどもは、大人になってからの学歴や収入が高く、犯罪率が低いといった社会的成功を収めやすい傾向があることが、長期の追跡データに基づいて示されました。
変化が激しく、正解が一つではないこれからの予測不能な社会においては、単に知識を暗記しているだけでは通用しません。困難な壁にぶつかったときに、自分の感情をコントロールして諦めずに立ち向かう力や、多様な価値観を持つ人々と協力して解決策を見出していく力こそが求められます。つまり、非認知能力はこどもが将来、心身ともに健康で充実した人生を送り、社会の中で「生き抜くための強固な土台」となる、非常に重要な力なのです。
発達が気になるこどもの非認知能力はどのように育つのか

認知能力(読み書きや計算など)との違いと、それぞれの能力が相互に影響し合う関係性について
先ほど、能力には「認知能力」と「非認知能力」があるとお伝えしましたが、これら2つは全く別々に独立して存在しているわけではありません。実は、この2つの能力は密接に絡み合い、相互に影響を与え合いながら発達していくという特徴を持っています。
発達心理学や教育学の分野では、この関係性をよく「氷山」や「木」に例えて説明します。氷山に例えるなら、海面上に飛び出して目に見えている部分が「認知能力(学力やIQ)」であり、海面下に隠れてそれをしっかりと支えている巨大な土台の部分が「非認知能力(意欲や自制心)」です。海面下の土台が小さく不安定であれば、海面上の氷山を大きくすることはできません。
木に例えるならば、豊かな土壌の中にしっかりと張り巡らされた「根っこ」が非認知能力です。根っこが十分に育っていない状態で、いくら幹(認知能力)を太くしようと肥料(知識)を与えても、木は大きく育たず、少しの風で倒れてしまいます。
例えば、算数の難しい計算問題(認知能力)を解けるようになるためには、「分からないからといってすぐに投げ出さない忍耐力」や、「どうすれば解けるのかを工夫して最後までやり抜く力」(非認知能力)が不可欠です。また、反対に、計算問題が解けたという成功体験(認知能力の向上)が、「自分はやればできるんだ」という自信(自己肯定感という非認知能力)を高め、次の新しい学習への意欲を生み出すという良いサイクルが生まれます。
発達に特性のあるお子さんの場合、どうしても読み書きや計算の遅れといった「目に見える認知能力のつまずき」に親御さんの目が向きがちです。しかし、無理にドリルを詰め込むよりも、まずは「分かって嬉しい」「もっとやってみたい」という意欲や自己肯定感といった非認知能力(根っこ)を育むアプローチをとることが、結果的に認知能力の健やかな発達を促す近道となります。
自閉スペクトラム症(ASD)やADHDなどの特性があるこどもにおける非認知能力の捉え方と専門的な見解
発達に特性があるこどもの非認知能力を考える際、定型発達(一般的な発達)のこどもと全く同じ物差しで測ったり、同じペースでの成長を求めたりすることは適切ではありません。専門的な見解を交えて、特性と非認知能力の関係性を紐解いてみましょう。
脳科学や児童精神医学の分野では、非認知能力の多くは脳の「前頭前野」という部分が司る「実行機能」と深く関わっていると考えられています。実行機能とは、目標を達成するために自分の思考や感情、行動をコントロールする脳の司令塔のような役割を果たします。
例えば、ADHD(注意欠如・多動症)の特性を持つお子さんは、脳の神経伝達物質の働きの違いにより、この実行機能が十分に機能しにくい状態にあります。そのため、「やりたい」という衝動を抑えられなかったり(自制心の難しさ)、少しでも気が散ると作業を最後まで続けられなかったり(やり抜く力の難しさ)といった姿として表れます。これは決して「性格が怠惰だから」や「親のしつけが悪いから」ではなく、脳の機能的な特性によるものです。
また、自閉スペクトラム症(ASD)の特性を持つお子さんの場合、「相手の表情や状況から気持ちを想像する」といった社会的なコミュニケーションに難しさを抱えることが多く、これが「協調性」のつまずきとして見えやすくなります。さらに、感覚過敏によって不安を感じやすかったり、予想外の出来事に対する柔軟な対応が苦手であったりするため、新しいことへの「意欲」よりも「恐怖」が勝ってしまうことも少なくありません。
このように、発達に特性のあるお子さんは、その特性そのものが非認知能力の育ちにくさの要因となっていることが多々あります。そのため、専門家は「できないことを本人の努力不足として叱責するのではなく、環境を調整し、その子が理解しやすい方法でサポートすることが重要である」と指摘します。定型発達のこどもが自然と身につけていく非認知能力であっても、特性のあるお子さんの場合は、より意識的で具体的なサポートを必要としていると捉えることが大切です。
苦手なことの克服よりも「得意なこと・好きなこと」を起点にして意欲を伸ばす重要性
日本の教育風土においては、「苦手なことを努力して克服すること」が美徳とされる傾向があります。もちろん、苦手なことに立ち向かう経験も大切ですが、発達に特性のあるお子さんの非認知能力を育む上では、この「弱点克服型」のアプローチは時に逆効果となる危険性を孕んでいます。
特性のあるお子さんは、日常生活の中で「みんなと同じようにできない」という失敗体験をすでに多く積み重ねており、自己肯定感が低下しているケースが少なくありません。そのような状態のお子さんに対して、さらに苦手なことを強要すると、「どうせ自分なんて駄目だ」「やりたくない」と強く反発し、学習性無力感(何をしても無駄だと諦めてしまう状態)に陥り、あらゆる意欲を失ってしまう可能性があります。
そこで発達支援の現場で重視されているのが、「ストレングス(強み)ベースのアプローチ」です。これは、こどもの苦手な部分に焦点を当てるのではなく、得意なこと、好きなこと、興味があること(ストレングス)を起点にして支援を展開していく考え方です。
例えば、ASDのお子さんで、電車や恐竜などに驚異的な「こだわり」を見せる場合があります。一般的な視点では「こだわりが強くて困る」と捉えられがちですが、見方を変えれば、それは「一つのことに何時間も没頭できる並外れた『やり抜く力(集中力)』を持っている」ということです。
この「好きなことに対する並外れたエネルギー」を肯定し、そこから広げていくことが重要です。電車が好きなら、電車の図鑑を一緒に読むことで「もっと知りたいという知的好奇心」を育み、鉄道博物館に行く計画を一緒に立てることで「目標に向かって計画する実行力」を養うことができます。
「好きなことをやっている時の自分はすごいんだ」という成功体験が自己肯定感を満たし、その自信がやがて、少し苦手なことにも挑戦してみようという「意欲」へと繋がっていくのです。非認知能力を育むためには、まずお子さんの「好き」のエネルギーを全面的に肯定し、そこから芽生える意欲を大切に育てていくことが最も効果的なアプローチと言えます。
今日から家庭で実践できる!非認知能力を育む声かけと関わり方の具体例

「やり抜く力」と「自己肯定感」を育む、こどもが失敗した時の温かい声かけとケア方法
こどもの「やり抜く力」や「自己肯定感」といった非認知能力が最も試され、また大きく成長するチャンスとなるのは、「失敗した時」や「うまくいかなかった時」です。しかし、特性のあるお子さんは、失敗に対する耐性が低く、一度間違えただけで「もうやらない!」「自分はバカだ!」と激しく落ち込んでしまうことがあります。
このような場面で親御さんがどのような声かけをするかが、その後の成長において非常に重要になります。 意識したいのは、「できた」という【結果】だけを褒めるのではなく、そこに至るまでの【プロセス(努力や工夫、諦めなかった姿勢)】に焦点を当てて声をかけることです。
例えば、ブロック遊びでうまく形が作れずに崩してしまった時。「何やってるの、もったいない」と叱るのではなく、まずは「うまくいかなくて悔しかったね」と感情を代弁して寄り添います。そして落ち着いた後に、「でも、ここまで高く積めたのはすごい集中力だったね」「次はどうやったら倒れないか、一緒に考えてみようか」と声をかけます。
また、宿題で計算問題を間違えた時も、「ここ間違ってるよ!」と指摘するのではなく、「難しい問題だったのに、最後まで座って解こうとした姿勢が素晴らしいね」「どこまで分かったか教えてくれる?」とプロセスを承認します。
お子さんに「失敗しても自分の価値は変わらない」「失敗は新しいことを学ぶための大切なステップなんだ」という安心感を家庭内で担保してあげることが、何度でも立ち上がる「やり抜く力」と、揺るぎない「自己肯定感」を育むための最大のケア方法となります。
感情のコントロールや協調性を自然と養う、日常の遊びやお手伝いを通じたコミュニケーション
非認知能力を育むために、特別な教育プログラムや高価な教材は必ずしも必要ありません。実は、毎日の「遊び」や「お手伝い」の中にこそ、感情のコントロール(自制心)や協調性を養う絶好の機会が隠されています。
例えば、ご家庭で実践しやすいのが「アナログゲーム(ボードゲームやカードゲーム)」を取り入れたコミュニケーションです。テレビゲームやタブレットとは異なり、トランプやすごろく、かるたなどのアナログゲームには、対面でのやり取りが不可欠です。
ゲームを通して、お子さんは自然と「自分の順番が来るまで待つ(衝動性のコントロールと自制心)」、「決められたルールを守る(社会のルールの理解)」、「勝敗を受け入れる(感情のコントロール)」といった高度な非認知能力を練習することができます。
特に特性のあるお子さんは「負けること」を極端に嫌がることがありますが、ご家庭という安心できる安全な環境の中で、「負けて悔しいけれど、暴れずに我慢できた」「『もう一回やろう』と切り替えられた」という経験を積むことが非常に大切です。親御さんは、勝った時だけでなく、「負けても怒らずに最後までゲームに参加できたこと」を大いに褒めてあげてください。
また、「日常のお手伝い」も非認知能力を劇的に伸ばす効果があります。洗濯物をたたむ、お箸を並べる、お風呂掃除をするなど、お子さんの年齢や発達段階に合わせた役割を与えてみましょう。
お手伝いは、「家族という集団の中で自分も役に立っている」という所属感と自己有用感(自分は価値のある存在だという感覚)を満たします。「〇〇ちゃんがお箸を並べてくれたから、お母さん助かっちゃった。ありがとう」という感謝の言葉を日常的にかけることで、お子さんは「誰かのために行動する喜び(協調性と思いやり)」を学び、それが社会への参加意欲へと繋がっていきます。
癇癪やこだわりが強い場面での対応のコツと、親御さん自身の心の保ち方
とはいえ、発達に特性のあるお子さんを育てていると、頭では分かっていても、激しい癇癪や強いこだわりに直面し、親御さん自身が感情的になってしまうことも少なくないでしょう。非認知能力を育むためには、まずトラブルが起きた際の対応のコツを知っておくことが重要です。
お子さんが癇癪を起こしてパニックになっている時は、脳が興奮状態にあり、親御さんがいくら正論を言って聞かせようとしても耳に入りません。このような場面では、「タイムアウト」や「クールダウン」と呼ばれる手法が効果的です。
これは決して「言うことを聞かないから閉じ込める」という罰ではありません。刺激の少ない静かで安全な場所に移動し、お互いの高ぶった感情を落ち着かせるための「ポジティブな離脱」です。「〇〇ちゃん、今は少しイライラしているみたいだから、あっちのソファで少しお休みしようね」と声をかけ、落ち着くまで見守ります。そして、お子さんが自力で落ち着くことができたら、「自分で気持ちを切り替えられたね」と、その【自制心】をしっかり褒めてあげます。
また、こだわりが強くて次の行動に移れない時は、無理やり引き剥がすのではなく、「事前の予告」が有効です。「時計の針が6になったらおしまいね」「あと3回滑り台を滑ったら帰ろうね」と、見通しを持たせることで、お子さんは自分の中で気持ちの折り合いをつける準備(感情のコントロール)がしやすくなります。
そして何より大切なのは、親御さん自身の心の保ち方(アンガーマネジメント)です。こどもの非認知能力は、身近にいる大人の姿を鏡のようにして育ちます。親御さんが常にイライラしていると、お子さんも安心して感情をコントロールする練習ができません。
完璧な親である必要はありません。親御さん自身が感情的になってしまった時は、「お母さんも怒りすぎちゃった、ごめんね」と素直に伝えることで、お子さんは「大人でも失敗するんだ」「失敗しても謝れば関係は修復できるんだ」という重要な社会的スキルを学ぶことができます。ご自身を責めすぎず、「まあいいか」「こんな日もある」と、ご自身の心に余裕を持たせることを最優先にしてください。
まとめ:こどもの「非認知能力」は、安心できる家庭の温かな関わりからゆっくりと育ちます

「非認知能力」という言葉を前に、発達に特性のあるお子さんの将来を案じて焦りや不安を感じていた親御さんも、本記事を通じて少しでも心が軽くなっていただけたなら幸いです。
テストの点数では測れない「やり抜く力」や「感情のコントロール」「自己肯定感」といった非認知能力は、決して特別な訓練だけで身につくものではありません。それは、お子さんが「自分は愛されている」「失敗しても受け入れてもらえる」と心から安心できるご家庭という安全基地の中で、親御さんとの日々の些細なコミュニケーションを通じて、ゆっくりと、しかし確実に育まれていくものです。
発達のペースがゆっくりであったり、特性ゆえの難しさを抱えたりしているお子さんの場合、周りのこどもたちと比べてしまい、成長が見えにくく不安になる日もあるでしょう。しかし、昨日できなかったことが今日少しだけできた、泣き喚く時間が5分短くなったといった、ほんの小さな「スモールステップ」の積み重ねこそが、確かな非認知能力の芽生えです。


